おしらせ

 
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オールドレンズ写真学校12月ワークショップ
今月は12月17日(日)の予定です。場所はみなとみらい。詳しくはこちら
既に定員オーバーのためキャンセル待ちとなっています。最近の傾向として募集開始から3日程度で定員が埋るようですので、募集開始日を事前に確認しておく事が肝心です。

2010/11/10

Carl Zeiss Jena BIOTAR 58mm/F2 3-SISTERS
(M42) カールツァイス・イエナ ビオター 3姉妹


戦後に製造された3代にわたるBIOTAR。いずれも焦点距離は58mmで開放絞り値はF2となる


戦後に造られた最初のモデルで、1948年に登場し1950年代初頭まで生産された。本ブログではBIOTAR-1と呼ぶことにする


1950年代初頭に登場した戦後の2代目となる後継モデルで、1959年まで製造された。こちらはBIOTAR-2とする

1950年代後半に登場した最後の後継モデルで、1960年代初頭まで製造されていた。BIOTAR-3とする
温調な発色と迫力あるボケ味が魅力の
オールドツァイス

 BIOTAR 58mm/F2はCarl Zeiss Jenaが戦前の1930年代から1959年まで製造していた単焦点高速レンズだ。戦後に3度のモデルチェンジがおこなわれ、戦前のものまで含めると4世代にわたるモデルが存在する。温調のあたたかい発色と魔力に満ち溢れた物凄いボケ味により、製造から半世紀以上が経過した今もクラシックカメラファンを魅了し続ける個性豊かなレンズとして知られている。光学系の構成は4群6枚のダブルガウス型で、ZEISSの技術者のウィーリー・ウオルター・メルテ博士(1889--1948)によって1927年に設計された。メルテはBIOTARの他にもTELE-TESSAR(1913)、BIOTESSAR(1925)、ORTHOMETER(1926)、SPHARONGONなど数多くの設計を手掛けている。今回は戦後に製造された3本のBIOTARに注目し、進化の足取りを辿ることにした。
 58mmの焦点距離を持つBIOTARが初めて登場したのは戦前の1936年代だ。最初のモデルは重量感のある真鍮製クロームメッキ仕上げの鏡胴で、ボディカラーはシルバー、対応マウントはEXAKTA、絞り機構はフルマニュアル(手動絞り)、絞り羽根は8枚、最小絞り値はF16という構成であった

Biotar 58mm F2の初期型
当時のレンズにはガラス面に光の反射防止膜(コーティング)が無く、逆光撮影時はフレアが豪快に発生していたようである。ただし、第二次世界大戦中に製造された製品にはガラス面に反射防止膜が施された製品が極少数だけあるらしい(その最初期の個体にはTコーティングを表す「T」のマークではなく赤いドットマークの「」が記されていた)。焦点距離は異なるが、他にもROBOT用(40mm/F2)やコンタックスレンジファインダー用(4.25cm/F2)のBIOTARが存在し、コンタックス用にはシルバーとブラックの2種のカラーバリエーションが用意されていた。58mmのモデルにブラックカラーのバリエーションが存在していたかどうかは不明だ。
 戦後間もなくモデルチェンジが行われ、後継品としてガラス面に光の反射防止膜が蒸着され、17枚もの絞り羽根を持つ豪華なモデル(BIOTAR-1と略記)が登場した。BIOTAR-1には鏡胴の素材に真鍮を採用したブラックカラーのタイプと、真鍮またはアルミ合金を採用したシルバーカラーのボディタイプが用意された。このモデルは歴代のBIOTARの中で最も軽量(アルミ合金製のタイプ)かつコンパクトであるのが特徴だ。最短撮影距離は0.9mとやや長めだが、最小絞りがF22までとれるよう設計変更されている。また、このモデルからは対応マウントにM42が追加され、Leica-L用(58mm/F2)の存在も確認できる。レンズのフィルター枠に目を向けると、赤く誇らしげにTのスタンプマークが記されていることに気付く。TとはTransparentzの略で、光を80%透過させることを目的にZEISSが1935年に開発した光の反射防止膜(Tコーティング)だ。ただし、1940年までの間は主に軍事目的の製品のみに使われ、このコーティングが写真用レンズに使われ始めたのはそれ以後の製品からとなる。

上段 BIOTAR-1のTスタンプと、青く輝くTコーティング
下段 BIOTAR-1の持つ17枚の絞り羽根
 1950年代前期に再びモデルチェンジが行われ、後継品となる戦後2代目のBIOTAR(BIOTAR-2と略記)が登場した。鏡胴の素材は前モデルと同じアルミ合金であり、2色あったカラーバリエーションはシルバーのみに一本化されている。デザインは同時期に発売された広角レンズのフレクトゴン35mm/F2.8と同じで、マウント部近くがすぼんだ美しいフォルムに変わった。また、BIOTAR-2からは絞り機構がプリセットに変更され、絞り羽根の構成は10枚と少なくなっている。なお、数は少ないが12枚や17枚構成の個体も存在するらしい。最小絞り値はF22からF16までと変更され、最短撮影距離は0.5mに短縮されている。1952年から1955年頃までのある時点から製造されたBIOTAR-2のフィルター枠には一級選別品であることを表す"1Q"のスタンプマークが記されるようになった。ただし、このマークはこれ以降のBIOTARのほとんどすべての個体に記されているので、たいした優位性はない。1955年~1958年頃に製造されたシリアル番号400万番あたりの個体からはTマークのスタンプが無くなり、1Qマークのみが記されるようになっている。これ以降のモデル(BIOTAR-3)についても同様である。


上段 BIOTAR-2の1Qスタンプ(B IOTARのロゴの左)とTスタンプ
下段 BIOTAR-2の美しいデザイン
 1950年代後期に最後のモデルチェンジが行われ、戦後3代目のBIOTAR(BIOTAR-3)が登場した。鏡胴の材質はアルミ合金で、同時期に発売された標準レンズのテッサー50mm/F2.8と同一の直線的なデザインに変わっている。前モデルからの変更は絞り機構が半自動型になった点と最短撮影距離が0.6mとやや長めに変更されている点だ。BIOTAR-3の輸出向けのロットではフィルター枠の内側にあるメーカー名やブランド名の刻印が"C.Z.Jena B"などと省略表記されている。こうした略記は東西のドイツに分断されたツァイスの両陣営が裁判で社名やブランド名の商標権を争っていたためで、東独から西側諸国への輸出製品に対して社名やブランド名の使用が規制されていた事による。

BIOTAR-1: 重量(実測)140g, 絞り値 F2-F22, 最短撮影距離 0.9m, 絞り羽根 17枚構成, フィルター径 40.5mm, 光学系は4群6枚。真鍮鏡胴のブラックカラーとアルミ鏡胴のシルバーカラーの2つのタイプが存在する
BIOTAR-2: 重量(実測)202g, 絞り値 F2-F16, 最短撮影距離 0.5m, 絞り羽根 10枚構成(数は少ないが12,17枚構成の個体も存在する), フィルター径 49mm, 光学系は4群6枚。鏡胴の素材はアルミ合金。他の2本よりも後玉が大きく突き出している

BIOTAR-3: 重量(実測)214g, 絞り値 F2-F16, 最短撮影距離 0.6m, 絞り羽根 10枚構成, フィルター径 49mm, 光学系は4群6枚。鏡胴の素材はアルミ合金。

★入手の経緯
 Biotar-1: 2010年9月にスロバキアの業者から202㌦、送料込みの218㌦(2万円弱)で落札購入した。商品の状態はEXCELLENT+で「前玉には2~3個の薄い小さな拭き傷があるが、イメージクオリティには影響がない」とのこと。コレクター向けの商品といった触れ込みなので状態はよさそうであった。本品は今回取り上げる3本のBIOTARの中で最もレアな製品なので、多少値が張る事は入札前から覚悟していた。自動入札ソフトを使い230㌦の最大入札額で締切8秒前にスナイプ入札をかけたところ、202㌦で落札することができた。eBayでの中古相場は200㌦くらいであろう。届いた品のガラスをよく見ると拭き傷は殆どなかったものの、前玉のガラス表面に経年劣化によるコーティングの焼け付きがプツプツと肌荒れ状に見られた。また、ガラス内には製造時由来の気泡がポツポツと確認できた。Biotarのガラスに気泡がパラパラとあるのはごく普通のことで、ガラス硝材の性質によるものらしい。これまで気泡のない個体に出会ったことは一度もない。撮影に影響の出るような大きな問題はなく、年代物にしては優れた品であった。
 Bioar-2:2010年9月にeBayを介してギリシャのオールドレンズ専門業者still22から落札購入した。商品の状態はMINT(ほぼ新品)で「ガラスには少し気泡がある。これは普通でありイメージクオリティに影響はない。光学系のガラスエレメントは全てクリア。駆動部の動作もパーフェクトで、フォーカスリングと絞り制御はスムーズで精確」との記述であった。こちらの商品のガラスにも気泡が多いのがあたりまえで、まったく気にすることはなかった。むしろ明記してくれたおかげで競買相手が減ったわけだから有り難い。この業者から過去に購入したMINT品は本当に新品みたいな状態だったので、全く不安要素はなかった。オークションは締め切り1日まえから132㌦の値を付けていたが、1分前になっても入札最高額に変化はなく132㌦のままであった。締め切り30秒前に205㌦で入札し、5秒前にだめ押しの215㌦で再入札したところ、何とたったの155㌦で落札してしまった。送料込みでもたったの178㌦(約15000円)である。本品のeBayでの中古相場は150~200㌦くらいで、状態のよい品になると200~250㌦程度であろう。今回は実にラッキーな買い物であった。届いた商品は確かにすばらしい状態の美品であったが、フォーカスリングは硬めであった。
 Biotar-3:2010年8月にeBayを介してBiotar-2の入手先であるギリシャのstill22から138㌦+送料22㌦の合計160㌦(約14000円)で落札購入した。商品の解説は「10枚の絞り羽根、パーフェクトなボケ!」という触れ込みで「1Qマークの入った一級選別品。鏡胴はエクセレント++で若干使用感がある。光学系は全エレメントがクリア。ガラスには少し気泡があるが、このレンズの場合にはそれが普通の状態だ。駆動系はパーフェクトで、絞り羽根は的確に動き、絞りリングは軽快で的確に動作する。フォーカスリングはやや重いが精確に動く」とのこと。商品の競売価格はオークション締め切り10秒前の時点で116㌦をつけていた。155㌦を投入しスナイプ入札を行ったところ、138㌦で競り落とすことができた。届いた品に大きな問題はなく、実用品としては良い品であった。
 
★撮影テスト
 歴代のBIOTARを描写力の観点から比較してよう。3本のBIOTAR全てに共通するの描写面での前評判は、
#1 距離によっては背景にグルグルボケが強く発生する
#2 近接撮影では背景のボケ味がやや騒がしくなることがある
#3 発色はやや赤みと黄色みを帯び、温調な仕上がりになる
などである。上記の性質も踏まえながら、以下では個々のレンズの性格の違いについて更に詳しく調べてみる。

(1)シャープネスと周辺画質の比較
 まずは画像中央部のシャープネスと周辺部の乱れに注目する。レンズをSony NEX-5につけ、三脚を用いてカメラから約2m離れたマンションの壁面を撮影したのが下の写真だ。
中央の領域Aと周辺部の領域Bを用いて画質の評価をおこなう。撮影時のISO感度は200に固定し、長時間露光時にカメラが自動で行うノイズ除去機能をOFFにしている。カメラの光軸が壁面に垂直になるように十分に注意し、ピント合わせは時間をかけて慎重におこなっている。絞り値を変えながら撮影し、各絞り毎に3本のレンズのシャッター速度が一定になるよう露出補正により微調整している

写真の中央にあるAの領域と周辺部のBの領域を拡大表示し、3本のレンズの画質を比較する。
領域Aでの画質の比較
写真をクリックすると拡大表示できる
 上の画像は中央の領域Aを絞り値ごとに並べた結果だ。開放絞りのF2付近と深く絞り込んだF16付近で3本のレンズのシャープネスに大きな差が生じていることがわかる。細かい凹凸に目を向けると開放絞りでのシャープネスはBiotar-3が最も高く、次いでBiotar-2、Biotar-1の順となる。肉眼による主観的な評価とはなるが、Biotar-3のF2はBiotar-2のF2.8相当、Biotar-2のF2はBiotar-1のF2よりもシャープでありF2.8よりもソフトな結果となった。F4まで絞れば3本のレンズの差は肉眼で判別ができないほど僅かになる。3本のレンズともF5.6で最もシャープになり、壁面上の細かな凹凸までも解像できるようになる。F8までは非常にシャープだが、これ以上深く絞ると一転し、回折効果でシャープネスは落ちてゆく。F11で僅かにソフトになりF16まで絞ると結像はだいぶソフトになる。F16で最もソフトなのはBiotar-1である。
 テストの結果から画像中央部のシャープネスはモデルチェンジを重ねるごとに向上していることがわかった。次に周辺部Bにおける画質の優劣を調べてみよう。

領域Bでの画質の比較
写真をクリックすると拡大表示できる
  上の写真は周辺部の領域Bにおける撮影結果だ。3本のレンズとも画像中央部に比べ結像がボケ気味になり、像面湾曲収差の影響を確認できる。開放絞りでのシャープネスはBiotar-3が最も高く、次いでBiotar-2、Biotar-1の順となる。Biotar-3のF2の画像はBiotar-2のF2.8よりもシャープでF4よりもソフトであることがわかる。一方、Biotar-2とBiotar-1のシャープネスに大きな差はない。F8まで絞れば3本のレンズの画質は僅差となる。各レンズともF11までは絞り込むほどシャープになるが、F16では一転し、回折効果でシャープネスは落ちてしまう。Biotar-1とBiotar-2は開放絞りからF2.8までの間で点像が彗星のように尾をひくコマ収差が発生している。Biotar-3ではコマ収差がしっかり補正されており点像の乱れは殆どない。
 このテスト結果では、Biotar-2からBiotar-3へのモデルチェンジによって画像周辺部の画質(像面湾曲収差とコマ収差の補正)が大幅に改善していることがわかった。
 
(2)グルグルボケ
 Biotarは非点収差が大きく、後ボケに大きな特徴を持っている。開放絞りで撮影すると、距離によっては像が円周状に回る、いわゆるグルグルボケ(非点収差)が強く発生する。これは、BIOTARを設計した当時のツァイスが、非点収差の抑制を後回しにし、像面の平坦化と均質化を急いだためである。下の写真では3本のBiotarによるグルグルボケの強さを比較している。3本とも物凄い勢いで回っており、ここまで激しくなってしまうと、もうこれは見事としか言いようがない。各レンズのグルグルボケの強さに差はないように見える。被写体の背中あたりから得体の知れない魔物(ムンクの「叫び」)がニョキッと現れそうな勢いだ。Biotar-1には絞り羽根が17枚もあり、本来ならば美しく整った自然なボケ味が得られるところだが、ここまでグルグルボケが強くては、それが生かされることはあまりなさそうだ。

F2 銀塩(SuperPremium 400) 3本のBIOTARによるグルグルボケの比較。
BIOTARのグルグルボケは絞りを全開にした際に後ボケで発生する
 今の写真用レンズは高級品から廉価品まで「草食系レンズ」とでも表現したらいいのか、収差のよく補正された素直でお行儀がよい製品が出揃っている。こういう物凄い妖力を持つレンズは今後ますます貴重になってゆくに違いない。
  
(3)発色
 Biotarの撮影結果はやや暖色系が強く、あたたかみのある温調な仕上がりになると評判だ。下の写真ではBIOTARの正統な後継となる現行製品のMC HELIOS 44M-6 58mm/F2を基準にBIOTAR-3の発色を相対的に比べている。HELIOSのほうが見た目に近いニュートラルな結果が得られているのに対し、BIOTAR-3では鉄錆が赤みを帯び、たいへんいい味を出している。同様の傾向はBIOTAR-1やBIOTAR-2にも共通してみられ、BIOTAR3姉妹が個性豊かな味わい深いレンズであることを実感できる。また、こうした傾向は1960年代中頃よりも前のアルミ玉やゼブラ柄のレンズに多く見られ、モノコート時代の古いツァイスに共通した性質のようである。
F2 digital(Sony NEX-5) BIOTAR-3による撮影結果。HELIOS 44M-6の
撮影結果とともにスプリングの根元のあたりを拡大した写真を下に示す

上段はBIOTAR-3(F2)、下段はMC HELIOS 44M-6(F2)で双方ともデジタル一眼(sony NEX-5)で撮影した。後継の現行品であるMC Helios 44M-6に比べ、BIOTARの方が鉄錆が赤っぽく温調気味になるようだ。HELIOSのほうが見た目に近いニュートラルな結果が得られている(ただし、HELIOSもやや黄色みを帯びるレンズとして知られている)
次に3本のBIOTARの発色を比較してみた。下の写真はデジタル一眼(SONY NEX-5)につけて撮影した結果だ。3本のレンズの差は僅かであるが、強いて言えばBIOTAR-1の黄色みが極僅かに強いことがわかる。

F4 digital(sony NEX-5) 注意深く観察すると1番上のBIOTA-1
が極わずかに黄色みが強いことがわかる。なお、これくらいの
近接撮影では3本とも背景のボケ味がやや騒がしくなるようだ
本品をデジタルカメラで使用する場合には画像処理エンジンがカラーバランスの癖を検出し、ニュートラスな方向に自動補正をかけるため、本来の味わい深い発色が弱まってしまう。3本のレンズの僅かな差を検出するにはフィルムで撮影した結果を用いた方がよさそうだ。下の写真は銀塩カメラによる3本のレンズの撮影結果を比較したものだ。

F2  銀塩(Uxi-100)による3本のBIOTARの発色の比較
BIOTARの撮影結果は黄色の発色が強いという前評判を掴んでいた。確かに3本のレンズの結果とも全体に黄色っぽい仕上がりとなっている。床面コンクリート部や背景の芝生の色に注目すると、Biotar-1の結果が最も黄色味が強く、次いでBIOTAR-2, BIOTAR-3の順であることがわかる。後継品の方がニュートラルな発色に近いようだ。
 次は植物の緑で発色の差を比較してみよう。下の写真の赤枠の部分を拡大表示したものが、さらにその下の写真となる。
F4 銀塩(Super Premium400) 写真中の赤枠を
拡大表示したものが下の写真となる

F4 (Fujicolor SuperPremium400) 
3本のBiotarによる発色の比較
 上の拡大写真の暗部から明部に向かうあたりを比較すると、やはりBiotar-1の結果が最も黄色味が強く、次いでBIOTAR-2, BIOTAR-3の順であることがわかる。最もニュートラルな結果が得られのはBIOTAR-3である。
BIOTARの撮影結果は3本とも赤や黄色が強く温調な仕上がりであり、古いモデルほど黄色みが強くあらわることがわかった。この傾向はデジタルカメラによる撮影よりも、フィルム撮影の方が良く現れている。ニュートラルな発色を極めてしまった現代のレンズとは異なり、味わい深い発色が得られる個性豊かなレンズであることを確認できた。
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(4)BIOTARの進化
 BIOTARの画質はモデルチェンジを重ねるたびに少しずつ改善していった。Biotar-1からBiotar-2へのモデルチェンジでは画像中央部のシャープネスが向上し、黄色みを帯びた発色がニュートラルになった。Biotar-2からBiotar-3へのモデルチェンジでは中央部のシャープネスが更に向上し、周辺部も大幅に向上した。像面湾曲収差やコマ収差の補正が良くなり、画像周辺部のボケや像の流れが少なくなった。実写においても後継モデルになるほどピント面がシャープで解像感に富み、ピントの山が掴みやすかった。グルグルボケは3本の全てのモデルで確認でき、BIOTAR-3においても全く衰えることなく健在であった。歴代のBIOTARに備わった力強い個性として、今後ますます注目されてゆくことであろう。BIOTARには75mmの焦点距離をもつ姉妹品もあり、こちらのレンズにも強いグルグルボケが発生すると言われている。メルテ博士はグルグルが大好きなのであろうか?
なお、焦点距離58mmのBIOTARの設計は1960年代から生産の続くロシア(旧ソビエト連邦)のHELIOSブランドに受け継がれている。後継となるヘリオス44シリーズはモデルチェンジを繰り返し、何と現在も生産が続いている。HELIOSブランドの初期玉であるHELIOS-44(写真中央)は戦前のBIOTARのデットコピーであるため、今回取り上げた直系の3姉妹に対する傍系の親戚という間柄になる。HELIOSシリーズについては近いうちに本ブログで取り上げてみたい。
左から古いレンズの順にBIOTAR-1(後),BIOTAR-2(前),BIOTAR-3,
HELIOS 44, Helios 44M(前), MC Helios 44-3M(後), MC Helios 44M-6(現行品)
●○●○ 作例: Biotar-1 ○●○●

F2.8 銀塩(Super Premium400) 距離によっては滑らかさを欠いたやや煩いボケになる

F8 銀塩(Kodak Super 400) 逆光にめっぽう弱いとはいえ深く絞れば何とか使える

●○●○ 作例: Biotar-2 ○●○●

F8 digital(NEX-5) 温かみのある味わい深い発色だ
F4 digital(NEX-5) 最短撮影距離では、このくらいの撮影倍率になる


F8 digital(NEX-5)  絞ればしっかりきっちりシャープになるしコントラストも悪くない

●○● 作例: Biotar-3 ●○●

F4 digital(Sony NEX-5) フードを用いて余分な光をきちんとカットすれば、この
とうりにコントラストは悪くない。ピント面はすっきりシャープでピントの山はたい
へん掴みやすいので、必死にがんばれば動きのあるシーンにも対応できそうだ

F8 digital(Sony NEX-5) ピント面はたいへん解像感があり、
近接撮影でも結像に甘さを感じることはない

F4 銀塩(SuperPremium400)

★撮影機材
デジタルカメラ:Sony NEX-5 /銀塩カメラ:Pentax MZ-3
フード: PENTACON hood 49mm径(BIOTAR 2 and 3) /マミヤ二眼レフ用被せ式フード 42mm内径(BIOTAR 1)


 味わい深い温調な発色と豪快なグルグルボケを特徴とするBIOTARは、これからもカメラマン達を喜ばせ悩ませ続けるオールドレンズ界のアイドルと言えよう。3本のBIOTARの中から好きなものを1本を選ぶという選択は実に難しい。小柄で個性的な長女のBIOTAR-1、美しい次女のBIOTAR-2、2人の姉を見て育った秀才な三女のBIOTAR-3。ここまで我慢強く読んでくださった皆さんは、どの一本を選びますか?

2010/11/01

ENNA München TELE-ENNALYT 135mm/F3.5


うーん・・・
デザインが良いから許します。ハイ

Enna社は戦後の旧西ドイツで廉価なレンズを生産していた新興メーカーだ。センセーショナルな製品を世に送り続けてきた元気の良い企業として知られている。1953年に西ドイツでは初となるレトロフォーカス型広角レンズのLithagon 35mmを発売すると、1955年には驚異的な光学性能を持つ大口径中望遠レンズのEnnaston 85mm/F1.5(後にEnnalytに改名)や、東西ドイツで初となる焦点距離28mmの一眼レフ用広角レンズUltra-Lithagon 28mm/F3.5を送り出し話題となった。Ennastonは希少価値が極めて高く、現在の中古相場では3000㌦以上の高額で取引されることもある。続く1958年に発売した9枚玉のSuper-Lithagon 35mm/F1.9は開放絞り値がズバ抜けて明るく、世界で最も明るいレトロフォーカス型広角レンズとして注目を集めた。また、1961年に当時としては解放F値が極めて明るい巨大な望遠ズームレンズのTELE-ZOOM 85-250mm/F4を発売しモンスターの愛称で呼ばれた。このようにEnna社は派手な光学性能を持つレンズを次々と発表し、存在感のあるメーカーに成長した。
今回入手したTele-Ennalyt 135mm/F3.5は同社が1955年に発売した単焦点望遠レンズのブランドである。光学系は1949年に登場したたシュナイダーのTele-Xenar 135mm/F3.5(ゾナーから発展した4群5枚構成)に大変良く似た設計で、Tele-Xenarが持つ第2群目の張り合わせ構造を分離した5群5枚の設計となっている。初期のものはアルミ製の鏡胴であるが今回入手したゼブラ柄の個体は60年代初頭に行われたモデルチェンジによって世に出た第二世代の製品で、M42マウントとEXAKTAマウントに対応する2種が供給されている。なお、1963年代には本品を更に大口径化させたF2.8の開放絞り値を持つモデルも追加されている。デザインは存在感たっぷりのゼブラ柄で、安価な価格とともに消費者へのアピール度は充分である。ひとつ残念なのは絞りリングの制御をヘリコイドの繰り出し機構と分離させなかった点であろう。製造コストを安く抑えるために構造を単純化させたとはいえ、絞り値の設定時にもう片方の手を使いヘリコイドリングを押さえおかないとピントがずれてしまう。同様の難点は広角レンズのLithagonにも見られる。
焦点距離135mm/絞り値F3.5--F22, 最短撮影距離1.5m, フィルター径52mm,重量(実測)266g(フード込みで294g), 光学系は5群5枚で絞り羽根は12枚構成、絞り機構はフルマニュアル。M42マウントとEXAKTAマウントに対応する2種が存在する。OEM供給された同一品がTele-SandmarやTele-Ennastonなどの名で発売されている。ただし、これらはEXAKTAマウント用のみである

ENNA社は1964年までに累計400万本ものレンズを生産している。しかし、同社の製品が高いブランド力を獲得することはなかった。1965年頃からはOEM生産が主体となりドイツ国内外を問わず様々なバイヤーズブランド名でレンズを供給した。この頃の製品は製造コストの削減が優先され、絞り機構がフルマニュアルへと退化し、鏡胴の素材にはプラスティックが使われるようになっている。同社は1990年代までレンズやスライドプロジェクター等の光学機器の生産を続けていたが、現在はカメラ用レンズの生産から撤退している。Enna社の製品や歴史についてはFriedrich-W.Voigt著の"ENNA TASCHEN BUCH"(1965 Heering-Verlag)に詳細な情報が記されている。
★入手の経緯
本品は2010年6月にeBayを介し、中古レンズを専門とするギリシャのトップセラーstill22から落札購入した。オークションでは「12枚の絞り羽根、パーフェクトなボケ」との触れ込みで、「鏡胴はEXCELLENT++コンディション。鏡胴には少し使用感がある。前玉コーティングにクリーニングマークがあるが撮影結果に影響はない。他のレンズエレメントはクリアー。各部の動作、絞りは精確かつスムーズに動く。フォーカスリングの動作もスムーズかつ精確。」と解説されていた。オークションの締め切り間際に最大落札価格を102㌦に設定して入札したところ61㌦であっさりと落札できた。送料込みでの総額は84㌦であった。この業者にはこれまでも良い品を売っていただき、だいぶお世話になっている。商品に対する記述が的確で過去に一度も裏切られたことがない。今回も勿論、記述どうりの商品が届いた。
★撮影テスト
がんばれENNAと言いたいところだが、描写力については廉価製品らしさが滲み出ている。ボケ癖や周辺画像の流れなどはなく素直な結像が得られるが、シャープネスは平凡でコントラストも高くない。
Tele-Ennalytの光学系は5群構成であり、当時の135mm望遠レンズの大半が3群ゾナー型や4群の設計を採用したことを考えると異例の構成群数となる。5群というのは大方のレトロフォーカス型広角レンズと同じ群数で、光の反射防止膜の進歩によって当時ようやく実用的な画質を維持できるようになった敷居の高い構成だ。わざわざ無理をして5群構成に踏み切った経緯はわからないが、その反動が撮影結果にハッキリと出てしまっているのではないだろうか。ちなみに本ブログで過去に取り上げた5群構成のLithagonもコントラストの低いレンズであった。本レンズを屋外で使用する際にはしっかりとフードでハレ切りをしておかないとフレアが発生しやすく、暗部が浮き気味でメリハリのない軟調な撮影結果に陥りやすい。また、開放絞りでは残存球面収差が大きいようで鮮明感は高くない。被写体の輪郭部に弱いハロが生じることもある。いずれも深く絞れば問題ない。カラーバランスには癖はなく自然な色の出方である。細かいことではあるが、解像度の高いデジタル一眼につけて使用すると開放絞り付近で軸上色収差による色滲みを拾い、ピント合わせの際にピント面近くにある像の輪郭部が前ピンで赤、後ピンで青に色付いて見えることがある。また、ハイコントラストな撮影シーンに対して中間階調が省略気味になる点も気になる。ベンチマーク的な性能は平凡なわけだから、描写面でもう少し個性が欲しいところだ。
F3.5(開放絞り) NEX-5 digital, AWB: 開放絞りではあまり解像力が高くない。コントラストも低め

F8 NEX-5 digital,AWB:   あまりシャープなレンズとは言えないが絞ればこれくらいは鮮明になる。コントラストのつき具合も良好だ

 ★撮影機材
Sony α NEX-5 + ENNA Tele-Ennalyt 135/3.5 +純正メタルフード
このレンズは描写力に期待するよりも、派手なゼブラ柄のデザインを楽しむというのが正しい付き合い方のように思える。まぁ、こういうレンズもありだと思う。