おしらせ

 
イベント案内
上野由日路x伊藤弘 オールドレンズ写真学校 写真展 vol.4
11月3-5日 場所は原宿 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。

オールドレンズ女子部
12月2日(土) 東京ドームシティ イルミネーション撮影散歩&お茶会 詳しくはこちら

2012/01/27

Arsenal Vega-12B 90mm F2.8 (P6 mount) ベガ12B



 
四隅までバリッと写る驚異の5枚玉
PART3: ARSENAL VEGA-12B 90mm F2.8
BIOMETAR/XENOTAR型レンズは旧東ドイツのCarl Zeiss Jenaと緊密な関係にあったロシア(旧ソビエト連邦)でも生産された。シリーズ第3回は老舗光学機器メーカーのARSENALが中判カメラ向けに生産したVega-12B 90mm F2.8である。ロシアで本格的なBiometar型レンズが造られたのは1970年頃からと意外に遅かった。それ以前にもVega-1(1957年試作)やVega-3(1964年発売)など近い構成を持つレンズは造られていたが、輸出先の西側諸国で1950年代前期に開示されたXenotar特許がロシア国外にレンズを輸出する際の障壁となったことから、ロシア政府はBiometar型レンズの開発プランを先送りしていたようである。ロシア製Biometar型レンズは1960年代末に引き伸ばし用のVEGA-5UとVEGA-6Uが開発されたのを皮切りに、特許の期限が切れる1970年代初頭からバリエーションを急激に増やし、一般カメラ用レンズはもとよりムービーカメラ用レンズや引き伸ばし用レンズ、ビューレンズにまで裾野を広げている。

左側は1957年にロシア政府の直轄光学研究所であるGOI(Gosudarstvennyy Optical Instituteによって試作されたVegaシリーズ初期の試作品Vega-1 5.2cm F2.8の光学系断面図である。GOIのカタログに掲載されているスケッチをトレースした。前群の構成がBiometar / Xenotar 型レンズ(右)とは明らかに異なっており、見方によっては変形トポゴンタイプと表現することもできる。右側はVega-12b 90mm F2.8の光学系。ロシアでは Biometar / Xenotar型レンズとその変形版レンズに対して慣例的にVEGAの共通シリーズ名が付与される。レンズ名の由来は七夕の織女星(琴座の一等星)Vegaである
今回手にするVega-12B 90mm F2.8は中判カメラのKIEV-6C/60用レンズとして1971年頃から生産されたBiometar/Xenotar型レンズである。ロシアンレンズの中でも描写には高い評価があり、知る人ぞ知る隠れ銘玉と評されている。Kiev-6CはCarl Zeiss Jenaの中判カメラPentacon Sixのロシア版コピーである事から、レンズは明らかにZeissのBiometar 80mmを意識した製品のようである。興味深いのは、このレンズが90mmという変わった焦点距離を採用している点であり、旧東ドイツのZeiss Jena1949年に試作した6本のBiometar 90mm F2.8(プロトタイプ版を思い起こさせる。戦後のロシアではCarl Zeissブランドのデッドコピーが数多く生み出されたことから、VEGA-12BはBiometarのプロトタイプをベースに設計されたコピーレンズなのではないかという考えに至るのは極自然な発想である。しかし、この筋書きには一つだけ不可解な点が残る。次の構成図を見て欲しい。
Vega-12BはXenotarのように絞りを挟んで同心円状に丸みを帯びたダルマのような形状でありBiometarとは明らかに異なる光学系である。このような形状は広角部の画質(画角特性)を重視する際に有効があり、非点収差の補正効果を高める働きがある

左からBiometar、Vega-12B、Xenotarである。Vega-12Bの光学系はBiometarよりも前群の構成レンズが薄く造られており、貼り合わせ面が平坦、全体的にダルマのような丸みのある形状であり、明らかにBiometarよりもXenotarに近い特徴を持つ。全く想像でしかないが次のようなストーリーが繰り広げられたと考えることができる。
  旧東ドイツでは工業製品の開発がロシア政府の厳重な管理下に置かれていた。それらの多くが兵器の開発につながるからである。Zeiss Jenaの光学製品も例外ではなく、カメラやレンズの設計資料はロシア政府の直轄光学研究所であるGOIの手に渡り、GOIはこの資料をもとにZeissブランドのコピー製品を試作、自国の光学機器メーカーに技術供与していた。1957年にGOIが行ったVega-1 5.2cm F2.8の開発も、前の年の1956年にZeiss Jenaが同じ焦点距離を持つBiometar 50mm F2.8の試作品を開発した事に連動している。Biometar 90mm F2.8やPentacon sixの開発資料も1950年代にはGOIの手に渡っていたはずである。ロシアではカメラやレンズの開発と西側マーケットへの輸出は外貨獲得の有効手段として重要視されていたため、本来ならば間もなくPentacon sixとBiometar 90mm F2.8のロシア版コピー製品が登場するはずであった。ところが製品の開発計画を狂わせる出来事が起こった。1950年代初頭、西側諸国でSchneider社がXenotarの国際特許を開示したのである。特許の内容は戦後の混乱で特許申請が遅れていたBiometarの設計に極めて近いものであったため、これが認可されたことはロシアのGOIにとって想定外の事件だったのであろう[注1]。自国の力が及ぶ東独ZeissのBiomtar特許だけならば第二次世界大戦の賠償問題に託けてどうにでもできたが[注2]、Xenotar特許は西独メーカーが保有する権利のため、ロシア政府が国外へレンズを輸出する際には国際法律上、どうあがいてもシュナイダー社に対しライセンス料を支払う義務が生じたのだ。こうしてロシアにおけるカメラとレンズの開発は1950年代にいったんは計画されたものの、XenotarやBiometarの国際特許が期限切れとなる1970年代初頭まで凍結されることになった。
 さて、15年の歳月が経ち開発計画がいよいよ再開となる頃、Xenotarの描写力に対する世間の評判はただ事ではなく、それは高性能なBiometarをも凌駕していた。そこで、ロシアのGOIは新型レンズVega-12Bの設計の模範をBiometarからXenotarへと変更したのである。そして、90mmという焦点距離だけがBiometar計画の面影として残った。つまり、ロシアは1970年代になってからXenotarに恋してしまい、許嫁のBiometarとの関係を捨て、浮気に走ったのではないかと言いたいのである。このシナリオは深読みのしすぎであろうか。

注1・・・Biometarは1949年に開発されているが、米国での特許取得が実現したのはそれから10年も後の1959年である。東独メーカーの自由な企業活動には一定の制限があったようである。

注2・・・実際、戦後に東独Zeissが生んだFlektogon 35mmのケースでは、西側諸国のメーカーがこのレンズに相当する特許を保有していなかったため、何の障害も無くコピーされMir-1となった。
フィルター径 58mm, 絞り羽の構成枚数 6枚, 絞り機構は自動絞り, 重量(実測) 372g, 最短撮影距離 0.6m, 絞り値 F2.8-F22, 焦点距離 90mm, 4群5枚, ペンタコンシックスマウント(Kiev-6C/60)とKiev-88マウントの2種のマウント規格に対応している



後期型(左)は絞り羽の色がシルバー、前期型(右)はブロンズゴールドである
レンズの入手
eBayにはロシアやウクライナのディーラーがロシア製中古レンズを大量に出品しており、検索すれば大抵の製品はヒットする。Vega-12Bも常時出品されているので、じっくり時間をかけて探せば状態の良い品に巡り合うことができる。購入時の注意点として伝えておきたいのは製品の状態に対する格付けだ。ロシア製品を扱うディーラーの多くは商品の最上位の格付けに「NEW」の表記を使う習慣がある。MINT(新品同様の中古)の上に更にもう一つ上位の格付けを設けているのだ。中古品が基本のオールドレンズにNEWの表記を用いるのも変な気がするが、この格付けは本来、中古市場に大量に残存している80~90年代に生産されたロシア製品のオールドストック(販売歴のない古い在庫品)に対して用いられていた。しかし、最近では新品に近い中古品(いわゆるMINT状態の中古品)に対してもNEWの格付けを用いるケースが多くなっている。ロシア製レンズの輸入経験が豊富な知人によると、NEWの格付けを最高位に置く業者の場合、MINTやEXCELLENTの品質基準は一般の基準よりも低いケースが目立つという。MINT状態なので安心して購入したものの品質の低さにがっかりするケースがロシア製品には多いというのだ。ロシア製レンズを購入する場合には出品者の取引履歴や出品中の他の商品に対する記載を事前によく分析しておく必用がありそうだ。また、これは特殊な事情を背景に持つロシア製品に限った傾向なのでドイツ製品などに当てはまるものではない。
 さて、今回入手したVega-12BはeBayを介し、2011年8月にウクライナの中古レンズ業者から110ドル+送料の即決価格で落札購入した。商品の解説は「MINTコンディションのレンズ。ガラスはクリアで傷、ホコリ、カビ、クモリはなく、絞り羽根に油染みはない。鏡胴には傷やダメージは無い。レンズはPENTAX K20で実写テスト済み」とのこと。写真を見る限り状態はかなり良さそうに見えたが、MINTの上にNEWの格付けを置くセラーなので油断はできない。届いたレンズは少々のホコリの混入と拭き傷が2本あった。実用派の私には充分な状態であるが、やはり本来あるべきMINT CONDTIONではなかった。この一段階低い品質基準を「ロシアンMINT」と格付けしたい気分にさせられた。本品のeBayにおける相場は100-120ドル程度であろう。
 
撮影テスト
Vega-12Bは開放絞りからカッチリとシャープに写るレンズであり、柔らかさを残すBiometarとは描写設計がだいぶ異なっている。1段絞るとシャープな領域は画像中央部から四隅へ広がり、2段絞るあたりからは後ボケとの相乗効果によって、狙った被写体が浮き上がり立体的に見えるようになる。階調表現が鋭く硬質感が漂う描写のため、女性のポートレートなど柔らかさが求められるケースよりも男性の撮影や建造物、ブツ撮りなどの撮影に適している。もともと近接撮影に強く、最短撮影距離は僅か0.6mと短いので、花や虫などの接写にも対応できる万能性を有する。硬派な写りを好むユーザーの期待に確実に応えてくれる頼もしいレンズだ。後ボケは硬く、ザワザワと乱れることもあるが目障りな程にはならない。むしろこの硬さは絵画的な効果を生むので、積極的に利用すると面白い写真が撮れる。色再現は癖もなく忠実で、フレア対策がキッチリとできていれば色のりは良好だ。ただし、逆光撮影に弱く発色が淡くなるため、不要な光をしっかりとブロックする必要がある。屋外撮影時にはフードの装着が必須である。
 
フィルム(銀塩)撮影
CAMERA: EOS Kiss (スーパーの中古品売り場で1050円にて入手)
HOOD: minolta metal hood(80mmからの焦点距離に対応)
FILM: Kodak Super Gold 400/ EuroPrint 100
F5.6 銀塩撮影(Euro Print 100、露出アンダー気味) Biometar/Xenotar型レンズの長所を引き出すならば、四隅まで使い被写体を大きく撮るのがおすすめだ
F5.6 銀塩撮影(Euro Print 100、露出アンダー気味) 夕日をうけ発色が黄色みを帯びている
F5.6 銀塩撮影(Euro Print 100、露出アンダー気味) 2段絞れば周辺部もたいへんシャープな画質だ
F8 銀塩撮影(Kodak SG400, 露出は1段アンダー補正)
F11 銀塩撮影(Kodak SG400)  硬いボケの良さは像が崩れないことである。絵画のような美しいボケとなる
F8 銀塩撮影(Kodak SG400)
F2.8 銀塩撮影(Euro Print 100、露出アンダー気味)

デジタル撮影
Camera: Nikon D3
Hood: minolta metal hood(80mm規格)

F2.8 Nikon D3 digital(AWB): 中央部は絞り開放から高解像だ。ボケは硬いが目障りな程でもない。色のりはとても良い印象だ
 
F4 Nikon D3 digital(AWB): 1段絞れば高解像領域は周辺部(足下のあたり)にまで広がる。ジュースがそんなにうまいのか
F5.6 Nikon D3 digital AWB: 2段絞ると狙った被写体がフッと浮き上がり立体的に見える
F4 Nikon D3 digital AWB ISO 2000: 後ボケの硬さが油絵のような特殊効果を生みだす。像の輪郭が崩れない硬いボケならではの写真効果だ。世間にはフワッと溶けるような柔らかいボケを好む人が多いがこういうボケも悪くない


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2012/01/05

Meopta Meogon 80mm F2.8 改M42 (L39/M39 Enlarging lens)


Meopta Meogon 2.8/80の前期モデル(上)と後期モデル(下)
 
四隅までスカッと写る驚異の5枚玉
PART2: MEOPTA MEOGON 2.8/80


Biometar/Xenotar型レンズの優れた描写特性は平面像の精密複写に適していることから、活躍の舞台は引き伸ばし用レンズ(エンラージングレンズ)の分野にも広がった。シリーズ第2回はチェコ(旧チェコスロバキア)のPrerov(プレロフ)に拠点を置き、暗室用具やシネマプロジェクターの分野で中東欧最大級の規模を誇る光学機器メーカーのMeopta(メオプタ)社が1960年代から1970年代にかけて生産した引き伸ばし用レンズのMeogon(メオゴン) 80mm F2.8である。引き伸ばし用レンズは画質への要求の高さから一般に小口径の製品が多く、35mmの一眼レフカメラに転用した場合には表現力に不満が残る。Meogonのように80mm F2.8(50mm換算でF1.75)と大きな口径を実現した常用画角の製品は稀である。この口径で引き伸ばし用レンズに求められる高い画質基準をクリアできたのは、画角特性の良いBiometar/Xenotarタイプの光学設計だからこそであろう。
Meogonの光学系で左側が前群側となる。後群にある凹メニスカスレンズはBiometarよりもやや厚く、Unilite型よりも薄い
MEOGONにはゼブラ鏡胴の前期モデルとダークブルー色の後期モデルが存在する。両者の光学系はコーティング色の構成と配置まで含め同じにみえる。試しに両者の前群を交換してみたが、撮影には全く支障がなかったことから、やはり前期モデルと後期モデルは光学系が同一なのであろう(2本とも買う必要はなかった・・・)。製品個体に表記されたシリアル番号が4桁しかなく、生産数はあまり多くなかったようだ。レンズの設計構成をみると、Biometar/Xenotar型レンズの特徴である後群の凹メニスカスレンズがBiometarよりもやや厚く、Unilite型よりも薄い。このレンズエレメントの厚みは描写設計と密接に関わっており、薄くしてゆくとトポゴン型レンズの性質が優位になり画角特性(周辺部の画質)が向上、Biometar / Xenotarタイプのように隅々まで均一な画質になる。逆に厚くしてゆくとガウス型レンズの性質が優位に強まり、大口径化が容易になる。Meogonの描写特性はBiometar/XenotarタイプとUniliteタイプの中間的な位置付けにあるようだ。

MEOPTA(メオプタ)社
同社は1933年に旧チェコスロバキアの小都市Prerovにて、地元の工業学校教授Alois Mazurka博士の主導のもと設立されたOptikotechna(オプティコテクナ)社を前身とする光学機器メーカーだ。博士は就労先の工業学校に光学専攻を設けることに尽力し、それがOptikotechna社の設立に繋がった。設立後は引き延ばし機、暗室具、暗室用コンデンサー、プロジェクター装置などの生産を手がけ、1937年には郊外に新工場を建設し事業規模を拡大した。1939年に6x6cm判の二眼レフカメラFlexette(フレクサット)を開発することでカメラ産業へも進出している。しかし、間もなくチェコスロバキアはドイツ帝国による支配をうける。第二次世界大戦が始まり、同社はドイツ軍の要求に応じ軍需品(望遠鏡、距離計、潜望鏡、双眼鏡、ライフル)を製造するようになる。大戦終結の翌年1946年にOptikotechna社はチョコスロバキア共産党政権の下で国営化され、現在のMEOPTAへと改称された。社名の由来はME(機械:mechanical)+OPTA(光学機器:Opical device)である。戦後のMEOPTA社は引き延ばし機の分野で世界最大規模のメーカーに成長し、また中東欧における唯一のシネマプロジェクター製造メーカーとなった。しかし、戦後の東西冷戦体制がMEOPTAを軍需産業メーカーへと変えてしまった。1971年にはワルシャワ条約機構軍への軍需品生産が売上高の75%を占めるまで増大し、同社は正真正銘の兵器開発メーカーになっていた。国営企業が武器を生産し戦争・破壊行為に荷担する事への避難の声が国内外から高まっていた。こうした企業体質を変えようとする動きは冷戦構造の崩壊、1989年のビロード革命による共産党政権の崩壊を経て僅かに前進した。1988年にMeoptaはライフルの減産を発表し、1990年に生産を0%とすることで兵器産業からの脱却を宣言している。ただし、この数値にはライフル照準器や戦車の照準器などが武器としてカウントされておらず、同社は今現在も軍需光学製品を生産しており、軍需産業からの脱却には至っていない。Meopta社は1992年に民営化を果たし、今もチェコを代表する東欧最大級の光学機器メーカーとして企業活動を継続させている。

引き伸ばし用レンズ(エンラージングレンズ)の魅力
引き伸ばし用レンズとはフィルム像を印画紙に焼き付ける行程で用いられる複写用レンズである。描写設計が近接撮影に最適化されているものの、無限遠からの一般撮影にも使用可能で、絞り開放時には残存収差が現れ描写がソフトになる。これを好んで一般撮影(規格外の遠距離撮影)で使用する者もいる。収差が過剰に補正されていることから近接撮影で高解像な画質が得られるのはともかく、一般撮影で数段絞って使用した場合において球面収差の膨らみが全くなくなり、極端に高解像なレンズへと化けるケースもある。収差変動によりメーカーも想定していなかった一芸に秀でた描写力を示すケースである。しかし、単なるダメレンズにしかならない可能性も大いにある。この種のレンズを一般撮影に用いる遊びはコアなマニア達によって細々と続けられてきたが、口に出して魅力を語る人は少なく、どのレンズがどうなのかなど情報は極めて少ない。一流メーカーのレンズが非常に安く手に入るので、エンラージングレンズはレンズ遊びの穴場と言ってよい。

MEOGONをヘリコイドユニットにマウントする
引き伸ばし用レンズはヘリコイド(光学部の繰り出し機構)が省かれており、一眼レフカメラやミラーレス機の交換レンズとして用いるには下の写真のようにヘリコイドユニットに装着する必要がある。多くはマウント部がライカスクリューと同じM39/L39ネジになっており、変換リング(写真・左)を介してM42マウントのフォーカッシングヘリコイド(写真・中央のBORG製OASYS 7842)に搭載することができる。ちなみに、もう少しストロークの長いヘリコイドユニット(OASYS 7841)でも同様の改造にトライしてみたが、内部の天板がレンズの後玉ガード部に当たり無限遠のフォーカスが得られなかった。そこで仕方なくOASYS 7842を用いることになったのだが、マウント部とヘリコイドユニットの間に無駄な隙間(写真・右)ができてしまった。沈胴式みたいな姿でカッコイイと思うのは私だけであろうか?。このレンズを見た某人は、これを「沈胴しない式」と表現していた・・・トホホ。
本品を含め引き延ばし用レンズにはヘリコイドがついていない。一眼レフカメラで使用するために別途フォーカッシングヘリコイド(BORG製OASYS 7842)とM42-M39変換リングを用いてM42マウントに変換している。M42-M39変換リング(写真・左)はeBayにて5ドル程度(送料込み)で入手できる。ちなみに中国製のフォーカッシングヘリコイド(17-31mm)でも問題なく使用可能であった
入手の経緯
ゼブラ柄の前期モデルはポーランド版eBayを介し、2011年12月に個人の出品者から購入した。商品の状態は「非常に良い」と簡素な記述であった。2週間後に届いた品はチリやホコリの混入があったが前群を外して内部をブロアーで吹いたら完全に綺麗になった。ガラスは拭き傷すらない極上の状態で、こりゃラッキー。海外相場は65~90ドル程度とたいへん安く、ヘリコイドユニットと変換リングを合わせても150~170ドルとコストパフォーマンスのたいへん良いレンズだ。ちなみにMeogon 80mm F2.8は後期モデルを目にすることが多く、ゼブラ柄の前期モデルは希少性が高い。
Meogon 80mm F2.8(前期型):重量(実測・ヘッド部のみ) 186g, フィルター径 39mm, 絞り値 F2.8-F22, 構成 4群5枚Biometar/Xenotar型, ヘッド部ネジ M39(ライカL互換), 絞り羽枚数 5枚, 絞り機構 手動(マニュアル),コーティングはアンバー系が中心で一部マゼンダ系

ダークブルー色の後期型モデルは米国版eBayを介しスロバキアのカメラ用品業者(取引件数は何と19128件!!で好評価100%)から2011年11月に落札した。商品の状態はMINT in BOX(箱入りの新品同様品)で「未使用のオールドストック品、カビ、クモリ、傷がなく、絞りリングはスムーズ」とのこと。良くわかる拡大写真を提示しており、後玉についた指紋までクッキリと見えた。ただし、箱は50mm/F2.8のMeogon Sのものであり、元々の箱はロストしているとのこと。最近知ったアンドロイド携帯用のスナイプ入札ソフトで120ドルの最大入札額を設定し放置したとこと、89ドル(送料込の総額106ドル)で落札されていた。私以外にはフランスから1名の入札があり一騎打ちとなった。円高パワーをナメたらあかんでぇ!日本経済ごめんなさい。さすがにこんなレンズを狙うのはXenotar型レンズの愛好者ぐらいであろう。10日後に届いたレンズは僅かにホコリの混入がある程度で十分に良い品であった。こちらの海外相場も前期型とほぼ同じである。認知度が低く、レアであるにも関わらず相場は安い。
Meogon 80mm F2.8(後期型): 重量(実測・ヘッド部のみ) 176g, フィルター径 39mm, 絞り値 F2.8-F22, 構成 4群5枚Biometar/Xenotar型, ヘッド部ネジ M39(ライカL互換), 絞り羽枚数 5枚, 絞り機構 手動(マニュアル), コーティングはアンバー系と一部マゼンダ系の混合



撮影テスト:解像力はBiometarと同等。撮る対象を選ぶ事が肝心
 Biometar/Xenotarタイプのレンズにはガウスタイプのような画面中央部の突出した解像力はないが、そのかわりに四隅まで解像力の落ちない優れた画角特性が備わっている。このレンズはキレるなと人が目で見て感じる作例の多くは被写体をアップで写すような場合であり、このときに効果が表われるのは中央部を重視した1点突出型の解像力ではなく、分散型の解像力なのだ。引き伸ばし用レンズのMeogonにも四隅まで解像力の落ちない優れた画角特性が備わっている。
 Meogonを試写していて真っ先に気がついたのは後ボケが良く整っていることである。グルグルボケなど背景周辺部における像の流れが全くと言っていいほどなく、TessarやSonnarで撮ったのかと見間違えるレベルである。ただし、背景のボケ味は硬く、輪郭部にエッジが立つため、ザワザワと煩くなるケースがあり、撮る対象に注意する必要がある。世間には柔らかいボケを好む人が多いようだが、時には硬いボケも悪いものではない。像の形が崩れないので、上手く利用すれば例えば点光源などに対し、素晴らしい写真効果が得られる。コントラストは高くないため、ややあっさりとした淡泊な色のりとなる。曇天下にコンクリートなど灰色のものを撮ると青っぽく、また人の肌はやや白っぽくみえるなどクールトーン気味の発色である。F2.8の開放絞りでは球面収差の過剰補正が効き、像がややソフトでやわらかい描写になるが、1段絞るF4では周辺部まで解像力とコントラストが著しく向上、モヤモヤとしたものが無くなりスッキリと写るようになる。2段以上に絞った際の画質の向上は中央部・周辺部ともに僅かである。このレンズは一段絞ればほぼピーク性能に達するようで、最もおいしい絞り値はF4となる。開放絞りからF4までは解像力もコントラスト性能もBiometarと比べ全く遜色ない高いレベルに達している。安物なのに大したレンズだ。ただし、絞りを2段閉じた際にもコントラスト性能の更なる向上が見られるBiometarの方が、深く絞る際にメリハリの強い描写となる。
 Meogonは階調表現が鋭く、絞るとかなり硬い描写となる。建造物やモノ撮りには好都合だが、柔らかさが求められる人物撮影には向いていない。Biometarの時には温調な発色特性が硬質感を心理的に和らげてくれたが、Meogonはクールトーンなので、どうしても人が物体のように無機的に写ってしまう。描写特性による向き不向きをよく認識し、撮る対象を選り分ける必要がある。以下に銀塩撮影とデジタル撮影による作例を順に示す。もちろん、無補正・無加工だ。

★★銀塩(フィルム)撮影★★
使用フィルム Kodak ProFoto XL100 / Fujicolor V100
カメラ Pentax MX
minolta角形メタルフード(被せ式)使用
F4 銀塩撮影(FujiColor V100) 一段絞れば充分な解像力が得られる。背景にグルグルボケや放射ボケは全くでない。遠距離撮影で像面湾曲の補正がアンダーになっているのであろう。同類のBiometarやXenotarにはない大きなアドバンテージと言えるだろう。髪の毛のあたりを見てもらうとわかるが硝子のようにバキバキの質感である。階調表現が鋭く硬質感が強いので人を撮るには注意が要る

F5.6 銀塩撮影(Kodak ProFoto XL100) このレンズの長所はやはり四隅まで解像力が落ちないことである
F8 銀塩撮影(Kodak ProFoto XL100) 被写体を平面的に均質に写す際には大きな力を発揮する
F8 銀塩撮影(Kodak ProFoto XL100) 発色は青みがかる傾向が強くクールトーンだ

★★デジタル撮影★★
カメラ Nikon D3 digital
minolta角形メタルフード(被せ式)使用
F5.6 Nikon D3 digital(AWB): フィルム撮影の時にはシャドー部に青みがのるなどクールトーン調の発色であったが、デジタル撮影ではカラーバランスの自動補正が効くためかノーマルな発色となる

F2.8開放 Nikon D3 digital(AWB): このレンズの特徴である硬いボケを利用した作例。しかし予想以上にいい色がでるレンズだ。背景に伸びる枝の描写がとても気に入っている

F5.6 Nikon D3 digital(AWB): 世間には柔らかいボケを好む人が多いようだが硬いボケもそう悪いものではない
F5.6  Nikon D3 digital(AWB): 私は神社での作例作りに苦手意識があり失敗作の山を築き上げていたが、今回のMeogonは想像以上に頼りになるレンズなので、シャッターをガンガンを切ることができた
F5.6 Nikon D3 digital(AWB):周辺部の文字や蜘蛛の糸までクッキリと見える

F2.8  Nikon D3 digital(AWB):  近接撮影の場合は引き伸ばし用レンズの本領が発揮される。開放絞りから高い解像力となり、乾燥した肌の質感や鼻水の跡などがハッキリと写っている。ただし、髪の毛がガラスのような質感でバキバキ。人を撮るには硬すぎる描写だ
F11 Nikon D3 digital(AWB): 参考までに遠景も1枚加えておく。歪みはほぼないようだ。これは高速道路がビルを突き抜けている奇妙な風景だ

絞り値と画質の変化
画像中央部の解像力とコントラストを絞り値ごとに評価した。検査にはフルサイズ機のNIKON D3を用いている。最初の被写体は表面に凹凸のある錆びた金属車輪で、これを晴天時に屋外で撮影している。


ピント部は車輪中央部から上方へと伸びる細長い軸受けの表面である。ライブビューの拡大機能も援用し目でジックリとピントを合わせフォーカスエイドでチェックするという二段階ステップを踏んでいる赤で示した着色部を拡大し、絞り値ごとに並べたのが下の写真である。画像をクリックすると拡大画像が表示されるが、ブログの標準ビュアーが邪魔して写真が十分に拡大されない場合があるので、右クリックから画像をいったんPCに保存してご覧いただくのがよい。
写真をクリックすると拡大画像が表示されます
絞り開放のF2.8では像がややソフトになり階調表現もハイライト方向への伸びが僅かに悪い。1段絞るF4では解像力とコントラストがともに向上し、凹凸部がキッチリと再現されるようになる。ただし、2段以上絞っても画質の向上は僅かである。

Meogon vs Biometar どちらがシャープ?
次はBiometar(M42マウントの銀鏡胴タイプ)との比較によって、Meogonの相対的な画質を評価してみた。の写真はマンションのタイル表面を1m離れた位置から垂直に撮影したものだ。光軸合わせは画像中央部と、その左右端部の3点でフォーカスエイドが同時に点灯するように行っている。こちらのテストでもライブニューでジックリ合わせフォーカスエイドで確認をとる二段階ステップで、精確なピント合わせを行っている。実はここが最も根気の要る作業だ。画質の評価は画像中央部Aの領域と周辺部Bの領域で行った。撮影に用いたカメラはNikon D3である。



上の写真中央部のAの領域を拡大表示し、絞り値ごとに並べたのが下の写真だ。開放絞り(F2.8)では両レンズとも描写が僅かにソフトで細部の結像は甘いが、1段絞るF4では両者とも解像力が急激に向上、溝の中の極小サイズの凹凸までしっかりと再現されている。ただし、2段絞るF5.6では両者ともコントラストが若干高くなる程度で、画質の変化はごく僅かである。画像中央部における両レンズの画質はほぼ互角といってよい。両レンズとも1段絞るだけで画質はほぼピークに達する。
写真をクリックすると拡大画像が表示される
 今度は右端Bの領域を拡大表示し絞り値ごとに並べたのが下の写真だ。さすがに中央部と比べ解像力とコントラストの低下が顕著で、F2.8の開放絞りでは質感が失われモヤモヤとしている。それでも過去に行った他のレンズに対するテスト結果より優位な画質であり、Biometar型レンズの画角特性の良さを実感できる。1段絞るF4では解像力とコントラストが大幅に改善し、溝中の小さな凹凸がしっかりと再現されている。2段絞るF5.6ではBiometarのみコントラストが僅かに向上しメリハリが増している。一方、Meogonの画質に大きな変化はみられない。F5.6以上に絞る際の画像周辺部のコントラスト性能はBiometarの方が僅かに優れているようだ。
写真をクリックすると拡大画像が表示される


MeogonはBiometar並の高画質が得られるコストパフォーマンス抜群のレンズである。おもろいレンズを発掘でき今回は大満足であった。


NEX 5への搭載例


焦点距離105mm以下の常用画角を持つ大口径引き伸ばし用レンズ(口径20mmより大きなもの)
口径が大きい引き伸ばし用レンズはボケが大きく表現力に富むため、写真用レンズとしての転用価値が大きい。引き伸ばし用レンズの中にも稀に大きな口径を持つ製品が存在するので、情報を収集し整理ておく事には一定の価値がある。以下に焦点距離105mm以下の常用画角を持つ大口径(20mmよりも大きな口径)の引き伸ばし用レンズに関する情報を列記してみた。原則的に名の通ったメーカーの製品のみで、メーカー名がはっきりしないものはリストから除外している。レンズの口径(有効口径)を計算するには「焦点距離」を「開放絞り値」で割れば良く、計算方法は以下の通りとなる。

レンズの有効口径(effective aperture) X = 焦点距離(Focal length)開放絞り値(maximum aperture)

たとえばMeogon 80mm F2.8では X = 80mm ÷ F2.8 = 28.5 となる。ボーダーとなるX=20mmは50mmの標準レンズに換算した場合にF2.5の口径を持つレンズに相当する。計算例を挙げると、75mm F3.5ではX=75÷3.5=21.4mmなのでOK、75mm F4.5の場合にはX=16.6mmなのでNGということになる。ボーダーライン(ボーダー上は含めない)は焦点距離50mm F2.5、55mm F2.75、60mm F3、75mm F3.75、80mm F4、90mm F4.5、100mm F5となる。Xの値が大きいレンズほど、ある意味で表現力の豊かなレンズということになる。

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20mmより大きな口径(X>20mm)を持つ焦点距離105mm以下の
引き伸ばし用レンズ(メーカー名不明のレンズは除外)
Enlarging lenses with large effective aparatyure >20mm
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Schneider(Germany)
Componar 75mm f3.5(X=21.4)
Componar-S 105mm F4.5(X=23.3, Inverse tessar type,L39)
Leitz(Germany)
Focomat 9.5cm F4.5(X=21.1)
V-Elmar 100mm f1:4.5(X=22.2)
FujiFilm(JP)
E-Rector/Fujinar-E 75mm F3.5(X=21.4, Tessar-type)
Fujinon-ES 105mm F4.5(X=23.3)
Fujinon-ES 135mm F4.5(X=33.3)
Nikkon(JP)
EL-Nikkor 63mm F2.8(X=22.5)
Angenieux(France)
Type X1 75mm F3.5(X=21.4, L39, tessar type)
Meopta(CK)
Meogon 80mm F2.8(X=28.5,biometar/xenotar type)
Rodenstock(Germany)
Apo Rodagon-N 105mm F4(7 elements in 5 groups, X=26.3)
Aop Rodagon 90mm F4(X=22.5)
Rogonar-S 105mm F4.5(Tessar type)
Ross(UK)
Resolux 9cm f4(X=22.5, Tessar type)
Konishiroku/Konica(JP)
Hexar 75mm F3.5(X=21.4)
E-Hexanon 75mm F3.5(X=21.4)
MMZ(USSR)
INDUSTAR-58 ENLARGER 75mm F3.5(X=21.4, Tessar type)
VEGA 5U 105mm F3.5(X=30, Xenotar type)
Boyer Paris(France)
Topaz 75mm F2.9(X=25.9)
Saphir B 85mm F3.5(Euryplan type X=24.3)
Saphir B 75mm F3.5(Euryplan type X=21.4)
Taylor(JP)
Tayon 75mm F3.5(X=21.4)
minolta(JP)
E.Rokkor 75mm F3.5(X=21.4,L39)
Steinheil(Genmany)
Cassar 73mm F3.5(30mm thread)
Quinon 56mm F1.9(X=29.5) rare
Wollensak(USA)
velostigmat enlarging 89mm F3.5(X=25.4)
velostigmat 85mm F3.5(X=24.3)
Schacht(Germany)
Travegar 75mm F3.5(X=21.4,L39)
Dallmeyer(UK)
100mm F4.5(X=22.2)
Kodak(USA or Germany)
Color Printing Ektar/Enlarging Ektar
87mm F4.5, 93mm F4.5, 96mm F4.5, 100mm F4.5, 103mm F4.5
Beseler(USA/OEM product made in Wetzlar Germany)
Beslon 100mm F4.5(X=22.2)
Beseler 75mm f3.5(X=21.4)
Omega(USA/OEM)
EL-OMEGAR 75mm F3.5(X=21.4)
VOSS 75mm F3.5(X=21.4, L39,Triplet)
LPL(JP)
75mm F3.5(X=21.4, L39)
Nitto kogaku(JP)
Kominar-E 75mm F3.5(X=21.4)

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●メーカー不明のため除外(参考) Unknown Co.
E-OCEAN 75mm f3.5 (X=21.4,L39, made in Japan)
URTRASHARP 75mm F3.5(X=21.4,made in Japan)
Firstcall 75mm f3.5(X=21.4,4 elements)
Arista 75mm f3.5 (X=21.4, L39)
Hansa 75mm F3.5 (X=21.4,made in Japan)
TAYLOR TAYON 105mm F4.5(X=23.3)
SEAGULL 75mm F3.5(X=21.4,L39)
Soligor 75mm F3.5(X=21.4, made in Japan)
Vivitar 75mm F3.5(X=21.4,L39,made in Japan)
King 75mm F3.5(X=21.4, made in Japan)
SPECIAL ENLARGING ANASTIGMAT 75mm F3.5(X=21.4)

他にも大口径の引き伸ばし用レンズをご存じでしたら、掲示板等でお知らせいただければ幸いです。