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オールドレンズ写真学校ワークショップ
9月3日(日)場所はアクアパーク品川 申込制:定員15名(間もなく定員オーバーとなりキャンセル待ちに入るそうです) 詳しくはこちら スタッフとして参加予定です。

オールドレンズxポートレート写真展2
9月16日(土)―9月18日(月・祝)場所は学芸大前 こちらも関連ワークショップですので、お知らせいたします。詳しくはこちら

オールドレンズ写真学校ワークショップ
9月23日(土)場所は巾着田 申込制:定員15名(既に申込が続々と入っているそうです。最近、定員オーバーが多いので申込はお早めに) 詳しくはこちら
スタッフとして参加予定です。


2013/06/25

Elgeet opt. MINI-TEL 100mm(4inch) F4.5






シネマ用レンズの専門メーカーとして知られる米国elgeet社。MINII-TELは同社が1950年頃に生産した望遠レンズである。真鍮削りだしの鏡胴はどこから見てもシネマ用にしか見えないが、実はこの製品は同社唯一のスチル撮影用モデル(35mmフルサイズフォーマット)なのである。プロフェッショナル向けの製品規格に準拠した豪華な造りである。

エルジート社唯一のスチル撮影用レンズ
Elgeet光学(現NAVITAR社)は米国ニューヨーク州に拠点を置き、シネマ撮影用レンズ、シネマプロジェクター用レンズ、スライドプロジェクター用レンズ、顕微鏡用レンズ、Ⅹ線撮影用レンズ、ミサイル追尾システム用レンズ(米国海軍向け)などを製造していた光学機器メーカーである。1955年にシネマ用のGolden Navitar 12mm F1.2を発売し、世界で初めて非球面レンズの量産を実現したことで知られている。今回紹介するMINI-TEL(ミニテル) 100mm F4.5はElgeet社が1950年頃に生産したトリプレット型の望遠レンズである。8mm/16mmシネマ用レンズを中心に市場供給していた同社がスチル撮影用(35mmフルサイズフォーマット)に生産した唯一のモデルとなり、ExaktaとClaris MS-35の2種のマウント規格に対応していた。MINI-TELというレンズ名のとおり、望遠レンズにしてはとてもコンパクトな設計となっている。鏡胴は真鍮削りだしの豪華な造りで、採算が取れたのかは不明だが、製造コストはかなりのものだったのであろう。プロフェッショナル向けのレンズばかりを生産していた同社の製品の特徴をよくあらわしている。
重量(フードを含めた実測)230g, 最短撮影距離 1.8m (6feet), 絞り羽 13枚 , フィルター径 34mm(雄ネジと雌ネジの反転した特殊仕様), 純正フード付, 焦点距離 4inch(約100mm), 絞り値 F4.5--F22 , 鏡胴は豪華な真鍮削りだしのクロームメッキ仕上げで、シネレンズ顔負けの造りだ。 EXAKTAマウントとClaris MS-35マウントの2種のモデルが存在する。本品はEXAKTAマウント。Claris MS-35というレンジファインダーカメラは1946-1952年に生産されていた製品なので、このレンズの製造時期は1950年前後であろう

Elgeet光学
Elgeet社は1946年に3人の若者(Mortimer A. London, David L. Goldstein, Peter Terbuska)が意気投合し、ニューヨークのロチェスターに設立した光学機器メーカーである。LondonはKodak出身のエンジニアでレンズの検査が専門、GoldsteinとTerbuskaはシャッターの製造メーカーで知られるIlex社出身。3人は少年時代からの友人で、Elgeetという社名自体も3人の名の頭文字(L+G+T)を組み合わせてつくられた。彼らは1946年にアトランティック通りのロフトに店舗を開き、はじめレンズ研磨装置のリース業者としてスタート、すぐ後にレンズの製造と販売も手がけるようになった。会社は1952年に300人弱の従業員を抱え、数千のシネマ用レンズ(8mm/16mmムービーカメラ用)や光学機器を年単位で出荷する規模にまで成長した。この時点で3人の役職はGlodsteinが社長、Terbuskaが秘書、Londonが財務部長である。プロフェッショナル向けの廉価製品を供給するという隙間産業的なスタイルが成功したのか事業規模は順調に拡大し、1954年には米国海軍(US Navy)にミサイル追尾用レンズNavitarの供給を行うようにもなっている。更に同社は1960年頃からNASAや国防総省との関係を強めてゆくが、この頃から会社の経営はうまくゆかなくなる。同時期に筆頭創設者のLondonが退職し、その2年後に同社は一時ドイツ・ミュンヘンのSteinheil(シュタインハイル)社の所有権を獲得するが直ぐに売却。2年後の1964年には株主総会が会社の再編を勧告し、Goldsteinは社長の座を追われている。株主総会から新社長に任命されたのはAlfred Watsonという人物であるが、それから2年後に会社の資本は株式会社MATI(Management and Technology Inc)に吸収されている。なお、MATI社は1969年まで存続し消滅、Goldsteinはこの時にMATI社が保有していた資産の一部を購入し、D.O.Inc. ( 株式会社Dynamic Optics )を創設している。しかし、この新事業は軌道に乗らず失敗し、新会社は1972年に閉鎖となっている。Goldsteinは1972年に改めてD.O.Industries ( Dynamic Optics工業社 )を設立し、事業を再々スタートしている。同社は1978年にNavitarのブランド名でスライドプロジェクター用レンズを発売し、1994年には顕微鏡用ズーム・ビデオレンズの生産にも乗り出している。会社は1993年に株式会社NAVITARへと改称。1994年にはGoldsteinの2人の息子JulianとJeremyが父Davidから会社を購入し、兄弟で会社の共同経営にのりだしている。2人はどちらも日本在住の経験があり日本語を話すことができる。Jeremyは1984年と1985年に日本のKOWAに出向し、レンズの製造技術と経営技法を学んだ経験を持つ。Navitar社はライフサイエンス関連の光学機器と軍需光学製品を製造・販売するメーカーとして今日も存続している。

参考:
A History of the Photographic Lens(写真レンズの歴史), Kingslake(キングスレーク) 著
NAVITAR社ホームページ:http://www.navitar.com/company/timeline.html


入手の経緯
本レンズは2012年11月にeBayを介して米国の写真機材業者から落札購入した。商品の記述は「ガラスに拭き傷やダメージはない。比較的大きなチリが周辺部に一つある。フォーカスリングと絞りリングはスムーズで良好だ。外観はエクセレント・プラス・コンディション。マウントに問題がありExaktaのボディにキッチリとはまらない。」とのことだ。ややレアなレンズであるが、eBayでの落札相場は100ドル程度であろう。届いたレンズは僅かなホコリの混入程度の良好な状態で、チリと記載されていた部分は製造時由来の気泡であることが判った。マウント部には凹みがありEXAKTA-EOSアダプターが完全には装着できなかった。そこで、マウント部を取っ払い別のマウントに変換することにした。改造用の部品とマウントアダプターが全部で25ドル程度だったので、レンズの送料も入れると総額140ドル程度も費やしてしまった。

マウント部の変換
MINI-TELのマウント改造はとても簡単で、市販品のアダプターリングとエポキシ接着剤があればM42にもNikon Fにも簡単に変換できる。ここでは私が考えた簡単な改造法を紹介する。まずはマイクロドライバーを用いてマウント部周囲にあるイモネジを回し、マウント部を取り外す(写真1)。次にマウントを外した場所にM39-M42ステップアップ・アダプターリングを填め、その上からM42-M39ステップダウンリングを装着する(写真2)。リング装着時には鏡胴の段差がストッパー代わりになるので、光軸ずれが都合良く回避でき、ガタもなくしっかりとはまる。エポキシ接着剤でアダプターリングを鏡胴に固定すれば土台の完成である。この上から更にもう一本M39-M42ステップアップ・アダプターリングを装着し、再び土台をM42ネジに戻す。あとは各種マウントアダプターを装着するだけであるが、このままではフランジバックが短すぎてオーバーインフ仕様になってしまうので、フランジ調整リングを用いてフォーカス距離を調整する必用がある。下の製作例ではM42-Nikon Fアダプターを用いてNikon Fマウントに変換している。0.6mm弱のフランジ調整リングを挟むことで無限遠のフォーカスを、ほぼ正しく拾うことができた。

写真1:マウント部のイモネジをマイクロドライバーで外す
写真2:マウントを外した場所にM39-M42マウント変換リングを装着し土台をつくる。変換リングの鏡胴側にはM39-M42ステップアップリングを装着している












鏡胴の段差部分に変換リングが引っかかりストッパーになるため、ガタもなくピタリとはまる。あとはエポキシ接着剤で固定すれば土台の完成である。カメラ側のM39ネジにM39-M42ステップアップリングをもう一本装着し、M42ネジに変換しておく
最後に好きなカメラのアダプターを装着する。上の写真はNikonFに変換した例。必用に応じてフランジ調整リングを挟み無限遠のフォーカスを微調節する
撮影テスト
100mmの焦点距離とF4.5の口径比は戦後のトリプレット型レンズとしては無理のない手堅い設計であり、中央部の解像力とヌケの良さは大変素晴らしい。コントラストは控え目で中間階調が豊富なため、スッキリとしたヌケの良さとなだらかな階調描写が、まるで澄んだ水底を見ているかのような美しい透明感を与えてくれる。光や影の濃淡をとてもよくとらえる繊細な写りである。カラーバランスはほぼノーマルで、色ノリは良好だがコテコテした色にはならず、とてもいい具合の描写傾向である。贅沢な不満を言えば、開放でもコマやハロの目立たない堅実な収差設計のため、線の細い写りなど、それ以上のものまでは期待できないところである。トリプレットの弱点とされる周辺画質は長焦点のために問題にはならず、開放でも四隅まで良好な画質水準が保たれている。後ボケはやや硬く距離によってはザワザワと煩くなるが、グルグルボケはあまり目立たない。とてもよく写るレンズだ。

F8, EOS 6D(AWB): 古い民家に残されていた馬具; 良く写るレンズだ。トリプレットといえど長焦点レンズなので絞れば四隅まで高描写のようである。解像力は勿論高い。オールドレンズフォトコンテストに応募したうちの一枚だ


F4.5(開放), EOS 6D(AWB):  開放でもこのとおりの優れた描写力である。ヌケがよくスッキリとしている





F5.6, EOS 6D(AWB): この色の出方と階調描写は結構好きだ。ヌケが良いのに少しあっさり気味なところが、どこか透き通ったような印象を与える。濃淡変化をきっちりと拾う繊細な写りも好印象。ボケはやや硬く、トリプレットらしくザワザワとしている。長焦点レンズなのでグルグルボケが気になるほど目立つことはない
F8, EOS 6D(AWB):  階調変化がなだらかで、グラデーションがとても美しい

写りがよくて、造りも素晴らしく、希少性は高いが値段は安い。こんな美味しいレンズにはそう滅多に出会えないであろう。こういう魅力的なレンズをこれからも発掘してゆきたいと思う。