おしらせ


2013/06/25

Elgeet opt. MINI-TEL 100mm(4inch) F4.5






シネマ用レンズの専門メーカーとして知られる米国elgeet社。MINII-TELは同社が1950年頃に生産した望遠レンズである。真鍮削りだしの鏡胴はどこから見てもシネマ用にしか見えないが、実はこの製品は同社唯一のスチル撮影用モデル(35mmフルサイズフォーマット)なのである。プロフェッショナル向けの製品規格に準拠した豪華な造りである。

エルジート社唯一のスチル撮影用レンズ
Elgeet光学(現NAVITAR社)は米国ニューヨーク州に拠点を置き、シネマ撮影用レンズ、シネマプロジェクター用レンズ、スライドプロジェクター用レンズ、顕微鏡用レンズ、Ⅹ線撮影用レンズ、ミサイル追尾システム用レンズ(米国海軍向け)などを製造していた光学機器メーカーである。1955年にシネマ用のGolden Navitar 12mm F1.2を発売し、世界で初めて非球面レンズの量産を実現したことで知られている。今回紹介するMINI-TEL(ミニテル) 100mm F4.5はElgeet社が1950年頃に生産したトリプレット型の望遠レンズである。8mm/16mmシネマ用レンズを中心に市場供給していた同社がスチル撮影用(35mmフルサイズフォーマット)に生産した唯一のモデルとなり、ExaktaとClaris MS-35の2種のマウント規格に対応していた。MINI-TELというレンズ名のとおり、望遠レンズにしてはとてもコンパクトな設計となっている。鏡胴は真鍮削りだしの豪華な造りで、採算が取れたのかは不明だが、製造コストはかなりのものだったのであろう。プロフェッショナル向けのレンズばかりを生産していた同社の製品の特徴をよくあらわしている。
重量(フードを含めた実測)230g, 最短撮影距離 1.8m (6feet), 絞り羽 13枚 , フィルター径 34mm(雄ネジと雌ネジの反転した特殊仕様), 純正フード付, 焦点距離 4inch(約100mm), 絞り値 F4.5--F22 , 鏡胴は豪華な真鍮削りだしのクロームメッキ仕上げで、シネレンズ顔負けの造りだ。 EXAKTAマウントとClaris MS-35マウントの2種のモデルが存在する。本品はEXAKTAマウント。Claris MS-35というレンジファインダーカメラは1946-1952年に生産されていた製品なので、このレンズの製造時期は1950年前後であろう

Elgeet光学
Elgeet社は1946年に3人の若者(Mortimer A. London, David L. Goldstein, Peter Terbuska)が意気投合し、ニューヨークのロチェスターに設立した光学機器メーカーである。LondonはKodak出身のエンジニアでレンズの検査が専門、GoldsteinとTerbuskaはシャッターの製造メーカーで知られるIlex社出身。3人は少年時代からの友人で、Elgeetという社名自体も3人の名の頭文字(L+G+T)を組み合わせてつくられた。彼らは1946年にアトランティック通りのロフトに店舗を開き、はじめレンズ研磨装置のリース業者としてスタート、すぐ後にレンズの製造と販売も手がけるようになった。会社は1952年に300人弱の従業員を抱え、数千のシネマ用レンズ(8mm/16mmムービーカメラ用)や光学機器を年単位で出荷する規模にまで成長した。この時点で3人の役職はGlodsteinが社長、Terbuskaが秘書、Londonが財務部長である。プロフェッショナル向けの廉価製品を供給するという隙間産業的なスタイルが成功したのか事業規模は順調に拡大し、1954年には米国海軍(US Navy)にミサイル追尾用レンズNavitarの供給を行うようにもなっている。更に同社は1960年頃からNASAや国防総省との関係を強めてゆくが、この頃から会社の経営はうまくゆかなくなる。同時期に筆頭創設者のLondonが退職し、その2年後に同社は一時ドイツ・ミュンヘンのSteinheil(シュタインハイル)社の所有権を獲得するが直ぐに売却。2年後の1964年には株主総会が会社の再編を勧告し、Goldsteinは社長の座を追われている。株主総会から新社長に任命されたのはAlfred Watsonという人物であるが、それから2年後に会社の資本は株式会社MATI(Management and Technology Inc)に吸収されている。なお、MATI社は1969年まで存続し消滅、Goldsteinはこの時にMATI社が保有していた資産の一部を購入し、D.O.Inc. ( 株式会社Dynamic Optics )を創設している。しかし、この新事業は軌道に乗らず失敗し、新会社は1972年に閉鎖となっている。Goldsteinは1972年に改めてD.O.Industries ( Dynamic Optics工業社 )を設立し、事業を再々スタートしている。同社は1978年にNavitarのブランド名でスライドプロジェクター用レンズを発売し、1994年には顕微鏡用ズーム・ビデオレンズの生産にも乗り出している。会社は1993年に株式会社NAVITARへと改称。1994年にはGoldsteinの2人の息子JulianとJeremyが父Davidから会社を購入し、兄弟で会社の共同経営にのりだしている。2人はどちらも日本在住の経験があり日本語を話すことができる。Jeremyは1984年と1985年に日本のKOWAに出向し、レンズの製造技術と経営技法を学んだ経験を持つ。Navitar社はライフサイエンス関連の光学機器と軍需光学製品を製造・販売するメーカーとして今日も存続している。

参考:
A History of the Photographic Lens(写真レンズの歴史), Kingslake(キングスレーク) 著
NAVITAR社ホームページ:http://www.navitar.com/company/timeline.html


入手の経緯
本レンズは2012年11月にeBayを介して米国の写真機材業者から落札購入した。商品の記述は「ガラスに拭き傷やダメージはない。比較的大きなチリが周辺部に一つある。フォーカスリングと絞りリングはスムーズで良好だ。外観はエクセレント・プラス・コンディション。マウントに問題がありExaktaのボディにキッチリとはまらない。」とのことだ。ややレアなレンズであるが、eBayでの落札相場は100ドル程度であろう。届いたレンズは僅かなホコリの混入程度の良好な状態で、チリと記載されていた部分は製造時由来の気泡であることが判った。マウント部には凹みがありEXAKTA-EOSアダプターが完全には装着できなかった。そこで、マウント部を取っ払い別のマウントに変換することにした。改造用の部品とマウントアダプターが全部で25ドル程度だったので、レンズの送料も入れると総額140ドル程度も費やしてしまった。

マウント部の変換
MINI-TELのマウント改造はとても簡単で、市販品のアダプターリングとエポキシ接着剤があればM42にもNikon Fにも簡単に変換できる。ここでは私が考えた簡単な改造法を紹介する。まずはマイクロドライバーを用いてマウント部周囲にあるイモネジを回し、マウント部を取り外す(写真1)。次にマウントを外した場所にM39-M42ステップアップ・アダプターリングを填め、その上からM42-M39ステップダウンリングを装着する(写真2)。リング装着時には鏡胴の段差がストッパー代わりになるので、光軸ずれが都合良く回避でき、ガタもなくしっかりとはまる。エポキシ接着剤でアダプターリングを鏡胴に固定すれば土台の完成である。この上から更にもう一本M39-M42ステップアップ・アダプターリングを装着し、再び土台をM42ネジに戻す。あとは各種マウントアダプターを装着するだけであるが、このままではフランジバックが短すぎてオーバーインフ仕様になってしまうので、フランジ調整リングを用いてフォーカス距離を調整する必用がある。下の製作例ではM42-Nikon Fアダプターを用いてNikon Fマウントに変換している。0.6mm弱のフランジ調整リングを挟むことで無限遠のフォーカスを、ほぼ正しく拾うことができた。

写真1:マウント部のイモネジをマイクロドライバーで外す
写真2:マウントを外した場所にM39-M42マウント変換リングを装着し土台をつくる。変換リングの鏡胴側にはM39-M42ステップアップリングを装着している












鏡胴の段差部分に変換リングが引っかかりストッパーになるため、ガタもなくピタリとはまる。あとはエポキシ接着剤で固定すれば土台の完成である。カメラ側のM39ネジにM39-M42ステップアップリングをもう一本装着し、M42ネジに変換しておく
最後に好きなカメラのアダプターを装着する。上の写真はNikonFに変換した例。必用に応じてフランジ調整リングを挟み無限遠のフォーカスを微調節する
撮影テスト
100mmの焦点距離とF4.5の口径比は戦後のトリプレット型レンズとしては無理のない手堅い設計であり、中央部の解像力とヌケの良さは大変素晴らしい。コントラストは控え目で中間階調が豊富なため、スッキリとしたヌケの良さとなだらかな階調描写が、まるで澄んだ水底を見ているかのような美しい透明感を与えてくれる。光や影の濃淡をとてもよくとらえる繊細な写りである。カラーバランスはほぼノーマルで、色ノリは良好だがコテコテした色にはならず、とてもいい具合の描写傾向である。贅沢な不満を言えば、開放でもコマやハロの目立たない堅実な収差設計のため、線の細い写りなど、それ以上のものまでは期待できないところである。トリプレットの弱点とされる周辺画質は長焦点のために問題にはならず、開放でも四隅まで良好な画質水準が保たれている。後ボケはやや硬く距離によってはザワザワと煩くなるが、グルグルボケはあまり目立たない。とてもよく写るレンズだ。

F8, EOS 6D(AWB): 古い民家に残されていた馬具; 良く写るレンズだ。トリプレットといえど長焦点レンズなので絞れば四隅まで高描写のようである。解像力は勿論高い。オールドレンズフォトコンテストに応募したうちの一枚だ


F4.5(開放), EOS 6D(AWB):  開放でもこのとおりの優れた描写力である。ヌケがよくスッキリとしている





F5.6, EOS 6D(AWB): この色の出方と階調描写は結構好きだ。ヌケが良いのに少しあっさり気味なところが、どこか透き通ったような印象を与える。濃淡変化をきっちりと拾う繊細な写りも好印象。ボケはやや硬く、トリプレットらしくザワザワとしている。長焦点レンズなのでグルグルボケが気になるほど目立つことはない
F8, EOS 6D(AWB):  階調変化がなだらかで、グラデーションがとても美しい

写りがよくて、造りも素晴らしく、希少性は高いが値段は安い。こんな美味しいレンズにはそう滅多に出会えないであろう。こういう魅力的なレンズをこれからも発掘してゆきたいと思う。


2013/05/24

Meyer Optik Trioplan(トリオプラン) 100mm F2.8 (M42)

Trioplanの素晴らしい描写力に出会ったのはドイツ人が開設しているこちらのWEBサイトである。初めて訪れた時の衝撃を今でもよく覚えている。このレンズを用いれば、ごくありふれた風景が今まで見たことも無いようなファンタスティックな光景に置き換わってしまうのだ。幻覚にも似た素晴らしい写真効果が得られるのである。

東独フーゴ・マイヤーの三羽烏(最終回)
PART3:銘玉TRIOPLAN 100mm F2.8


Meyerの望遠系レンズには端正な写りが評判のTelefogar(テレフォガー)90mm F3.5やボケ・モンスターの異名を持つOrestor(オレストール) 135mm F2.8など注目度の高いレンズが揃っている。中でも最近、圧倒的な人気を誇るのがTrioplan(トリオプラン)100mm F2.8である。設計構成は廉価品扱いの絶えないトリプレットで、焦点距離は100mmとやや不人気のカテゴリーにある。レアな製品と言えるほど流通量が少ないわけでもない。何がそんなに人気なのかというと、このレンズでしか表現できない独特のボケ「バブルボケ」である。このレンズで撮ると被写体の背後に現れる点光源のボケが背景から剥離し、空間を漂うシャボン玉の泡沫(ほうまつ)のように見えるのだ。ユニークなのは大小不揃いのシャボン玉が立体的に浮き上がって見えるところである。シャボン玉の大きさが不揃いなのは望遠レンズ特有の圧縮効果によって近くの点光源と遠くの点光源が空間的に接近して見えることによる。また、立体的に浮き上がって見えるのはシャボン玉の輪郭に光が強く集まる火面(Caustics)と呼ばれる現象のためである。この種のボケは二線ボケやリングボケとともに、球面収差を過剰に補正することで発生する。光学系の能力を超えた無理な大口径化を根本原因とし、収差の脹らみを無理に抑え込んでいるため、絞りを開ける際に起こる急激な反動(高次球面収差の膨張による急激なフォーカスシフト)がシャボン玉の輪郭に光の集積部を生み出すのである[文献1,2]。100mmの焦点距離でF2.8の口径比を実現したTrioplanは、トリプレットタイプとしては異例の超大口径レンズである。画質的に無理な設計であることは明白だが、そのおかげで写真表現に新たな可能性が生み出されている点を見逃してはならない。Trioplanを用いた作例には収差の特性を取り入れたオールドレンズ的な演出効果が分かり易くあらわれている。これからオールドレンズをはじめようと意気込んでいる方にも自信をもってお薦めできる素晴らしいレンズだ。
フィルター径49mm, 重量(実測/純正フード込み)270g, 最短撮影距離 1.1m, 絞り羽 15枚, 3群3枚トリプレット型, プリセット絞り, 絞り指標 F2.8-F22, Vコーティング, 戦後型の35mmフォーマット用としてはM42/Exakta/Praktinaマウントの3種のモデルが存在する。製造期間は1951年から1966年。レンズ銘の由来はラテン語の「3」を意味するTriplexであり、このレンズが3枚玉であることを意味している



Trioplanは1913年から1966年まで生産されたHugo Meyer社の主力ブランドである。今回取り上げた100mm F2.8のトリオプランは戦前にStephen Roeschleinが設計したモデルがベースとなっている。RoeschleinはPrimoplanの初期型を設計した人物でもある。製品名の頭に付くTrioはこのレンズが3枚玉のトリプレットであることを意味している。初期の製品は大判撮影用のモデルが中心であったが、1936年からはEXAKTA用とLEICA用に3種のモデル(10cm F2.8/10.5cm F2.8/12cm F4.5)が登場し、1940年からはEXAKTA用に5cm F2.8の標準レンズも追加発売されている。戦前のモデルは重量感のある真鍮鏡胴であったが、1942年から軽量なアルミ鏡胴に置き換わっている。また、戦後になって光学系が再設計され、解像力と周辺画質が向上している。戦前のモデルと戦後のモデルでは描写傾向がかなり異なるようでバブルボケが発生するようになったのは戦後になってからのようである。戦後の望遠モデルは焦点距離が100mmのみに1本化され、1951年から1966年まで15年間生産された。このモデルの対応マウントはM42/EXAKTA/Praktinaと少なくとも3種存在する。シルバーとブラック(希少)の2種のカラーバリエーションに加え、1958年からEXAKTA用に黒鏡胴ゼブラ柄モデル(Trioplan N)が追加発売されている。なお、確かなエビデンスの無い情報ではあるが、Meyer-OptikブランドがPENTACONブランドに置き換わった後も、Trioplan 100mm F2.8はプロジェクターレンズのDiaplan 100mm F2.8として存続したようである(Mr. Markus Keinathが描写傾向を同定し、海外のオールドレンズ掲示板で情報を広めている)。戦後の35mm判としてはExakta/Praktina/M42/Altix用に50mm F2.9の標準レンズも供給されていた。こちらのレンズは1963年まで生産されDomiplanに置き換わることで同社のラインナップから消滅している。詳細は不明だが他にも7.5cm F2.9や80mm F2.8などの希少モデルが存在していたようである。戦前のTrioplanはバリエーションが豊富にあるので、調べればいろいろでてくる。
 
Trioplan 100mm構成図(文献4からのトレーススケッチ)左が被写体側で右がカメラ側となっている
  
参考文献1:球面収差の過剰補正と2線ボケ,小倉磐夫著, 写真工業別冊 現代のカメラとレンズ技術 P.166
参考文献2:球面収差と前景、背景のボケ味,小倉磐夫著, 写真工業別冊 現代のカメラとレンズ技術 P.171
参考文献3:PAT. No. DE1,805,326(21 October 1959 )
参考文献4:OBJEKTIVE FOR KLEINBILD KAMERAS, MEYER OPTIK 1959パンフレット

入手の経緯
このところ過熱気味なTrioplanのブームには目を見張るものがある。このレンズは過去に雑誌などで取り上げられた経緯がなく、知る人ぞ知る隠れ銘玉として、これまで一部のマニア層が細々と認知してきた。ところが、この数年で海外での再評価が進み、eBayではM42マウントのモデルが500-600ドルとかなりの高値で取引されるようになった。しかも、飛ぶように売れているのだ。いったい誰が買い漁っているのかは分からないが、状態のよい美品クラスの個体には800ドルを超える高値がつくこともある。1年前の2012年6月には200ドル、3年前の2010年には100ドルで取引されていた安価なレンズであったが、中古相場は過去3年間で4倍以上にも跳ね上がっているのだ。描写に特徴があるという理由だけで、ここまで注目されるオールドレンズは稀であろう。
  さて、今回私が入手したTrioplanは2013年1月にeBay(ドイツ版)を介しドイツの古物商から落札購入した個体である。商品の解説は「光学系、駆動系とも非常にコンディションの良いレンズである。ガラスに傷、クモリ、カビはない。前後のキャップがつく。100%オリジナルである」とのこと。出品者がカメラの専門業者ではなく単なる古物商であることが懸念材料であったが、返品に応じる規定を宣言していたので、思い切って入札することにした。競売による落札価格は460ドルで送料18ドルとまぁまぁの値段になってしまったが、届いた品は概観のスレとホコリの混入のみで、良好な状態であった。

撮影テスト
銀塩撮影: Kodak Gold 100(ネガ), YASHICA FX-3 Super 2000
デジタル撮影: EOS 6D

Trioplanは典型的な「球面収差の過剰補正型レンズ」である。開放ではハロを纏う線の細い描写となり、1~2段絞るとハロが消失し解像力とコントラストが向上、カミソリのような高いシャープネスが得られる。ただし、階調描写は絞り込んでも軟らかい。開放からヌケがよく、発色はほぼノーマルで色のりは良好である。トリプレット型レンズの弱点である周辺画質とグルグルボケは長焦点のために目立たず、四隅まで良好な画質が維持されている。背景にリングボケや2線ボケの傾向がみられ距離によってはザワザワと煩いボケ味となるが、反対に前ボケはフレアを纏う美しい拡散を示す。リング状のボケを防止するには高次の球面収差を補正すればよいが、シンプルなトリプレットの構成ではパラメータ不足のため不可能。Trioplanの独特のボケ味はこうして誕生している。
このレンズでバブルボケを効果的に発生させるには少しコツを掴む必要がある。まず、絞りは開放に設定し、フルサイズ機またはフィルムカメラ(35mm判)に搭載して撮影することが前提である。次に遠景にシャボン玉の生成原因となる光源を用意する。やや逆光気味のアングルで、カメラマンから10~15m位はなれた場所にテカテカと光る被写体をとらえればよい。遠景にはシャドー部をとらえ、シャボン玉の存在を強く引き立てると更に効果的である。撮影距離は2m~3mあたりが一番良く、これよりも近接側だと後ボケが綺麗に拡散しシャボン玉の輪郭が保たれないし、反対に遠方側ではボケが小さくなりすぎてしまう。以下作例。

F2.8(開放),  銀塩撮影(Kodak Gold 100): いきない出ました。シャボン玉ボケ。開放ではアウトフォーカス部のハイライト域にハロ(滲み)が発生するが、フォーカス部ではハロがピシャリとおさまる。このレンズの収差の入り方は絶妙だ


F2.8(開放), EOS 6D(AWB): ボケ玉の外周部にエッジが残り、このレンズならではの独特の光強度分布が得られている
F2.8(開放), EOS 6D(AWB): このシャボン玉ボケを効果的に発生させるには、絞りを開放にしたまま撮影距離が2~3mのところで撮影し、遠景にキラキラと光る光源を入れればよい

F2.8(開放), EOS 6D(AWB): シャツを照らす木漏れ日。階調は軟らかく目に優しい描写だ

F2.8(開放), EOS 6D(AWB): 開放からヌケはよい
F2.8(開放): カラーネガ(Kodak Gold 100): 僕はこのTrioplanの描写が基本的にとても好きだ


F2.8(開放) 銀塩撮影(Kodak Gold 100): シャボン玉はフィルム撮影においても発生する


F2.8(開放),銀塩撮影(Kodak Gold 100): こちらもフィルム撮影による作例だ。大小大きさの異なるシャボン玉が浮き上がってみえる



F5.6, EOS 6D(AWB):少し絞るとハロは消え、解像力とコントラストは急激に改善する。驚くほどシャープである。まったく絞りのよく効くレンズだ。1950年代に製造された長焦点のTriplet型レンズは同時代の数ある構成の中でも解像力が突出して高い。そのことを裏付ける写りだ

F4, EOS 6D(AWB): 前ボケは柔らかく拡散しとても綺麗である
F5.6, EOS 6D(AWB): 発色なノーマルで色ノリもよい。絞って使えばヌケの良い優等生レンズに変身する


本エントリーでHugo Meyer特集は最終回となる。同社のレンズには他にもKino PlasmatやMacro Plasmat, Ariststigmat、Telefogar, Bis-Telarタイプの構成をもつTelemegorなど気になる製品が数多くある。これらについても、いつか入手し取り上げてみたいと思う。