おしらせ


2014/12/11

Ernst Leitz Summar(Mikro-Summar) 8cm F4.5


ライツ初期のマクロ撮影専用レンズ
Ernst Leitz SUMMAR 8cm F4.5
ある筋から山崎光学写真レンズ研究所の山崎和夫さんがご愛用のレンズと聞き、俄然興味を持ったのがSummar (ズマール)F4.5である。Summarの歴史を遡ると、何とLEICAの登場よりも古く、1907年には既にLeitzのハンドカメラとともに同社の広告に掲載されていた[文献1]。1910年にはマクロ撮影用モデルの原点と考えられる顕微鏡用のSummar 24mm F4.5が製造されている。Summarと言えばLeica用に供給された一般撮影用レンズの50mm F2が有名だが、このモデルが登場したのは1933年とだいぶ後の事である。
今回取り上げるのはマクロ撮影専用モデルとして設計されたSummar 8cm F4.5である。焦点距離8cmのモデル以外には24mm, 35mm, 42mm, 64mm, 10cm, 12cm, 24cmが存在し、ライカ判35mmフィルム(≒フルサイズセンサー)をギリギリ包括できるイメージサークルを持っている。いずれもヘリコイドの無いレンズヘッドのみの製品として供給され、私が入手した製品個体はマウント側がM25ネジ(ネジピッチ0.75)になっていた。一般撮影用レンズとしてカメラで用いるにはマウントアダプターを使い直進ヘリコイドに搭載するのがよい。光学系については記録がないものの、光の反射面の数からは明らかに4群6枚の標準的なダブルガウス型であることが判る。ただし、Vade Macum[文献2]にはダブルガウス型モデル以外にDialyt(ダイアリート)型に変更された後期型モデルが存在したという情報もある。全モデルにシリアル番号の刻印がなく、製造期間やモデルチェンジの経緯など詳しい事はわかっていない。鏡胴が真鍮製でありガラスにコーティングが施されていない事から推測すると、私が入手したのは戦前に生産された製品個体であろうと思われる。文献3には焦点距離8cmのモデルが等倍から7倍の撮影倍率で最適化されていると記載されている。なお、鏡胴にMikro-Summarと刻印されている製品個体も存在するが、いずれにしてもレンズの収納ケースにはMikro-Summarと記されているので差異はないと思われる。謎の多いレンズだ。
  • 文献1: Advertising by E.Leitz Wetzlar in Photographische Rundschau 1907, no. 13 (Click Here)
  • 文献2:Matthew Wilkinson and Colin Glanfield, A Lens Collector's Vade Mecum
  • 文献3:  Aristophoto instructions(Leitz catalog)

重量(実測) 73g, 絞り羽 10枚, フィルター径 23mm前後, 構成 4群6枚(ダブルガウス型), マウントスレッドM25(ネジピッチ0.75mm), シリアル番号未記載, 絞り値:2(F4.5), 4(F6.3), 6(F7.7), 12(F11), 24(F15.4), イメージサークルはライカ判35mmフィルム(≒フルサイズセンサー)をギリギリカバーできる。レンズ名はラテン語で「最高の」を意味するSummaを由来としている。




 
入手の経緯
このレンズは2013年10月にeBayを介して米国の古物商から落札購入した。出品者は写真機材が専門ではなく主にiPhoneの端末を売り、5回に1回程度の割合で写真機材を出品している人物だ。「ガラスはVery Nice」との触れ込みで、オークションの解説は「Ernst Leitzのマクロ撮影用レンズ。私はこれを用いて出品する商品の写真を大量に撮っていた。レンズに関する詳細はわからないが質問には何でも答える。キャノンAマウントレンズに変換できるアダプターをオマケでつけておく」とのこと。オークションの締め切り時刻は日本時間の明け方5時で、中国人ブローカー達もすっかり寝静まっている時刻である。ラッキーなことに配送先を米国のみに限定しているので、さっそく出品者に交渉し日本への配送について約束を得ておいた。配送額は12ドルとのことである。アンドロイドアプリの自動スナイプ入札ソフトで最大額を216ドルに設定し私も就寝・・・朝目覚めてビックリした。入札したのはたったの3名で落札額はたったの69ドル(+送料12ドル)である。eBayでの落札相場は350ドルから400ドル程度の商品なので、たいへんラッキーな買い物となった。2週間後に手元に届いた商品をみたところ、肝心の光学系はクリーニングマーク(拭き傷)すらない素晴らしい状態である。CマウントをL39/M39ネジに変換する純正アダプターも付属していた。

カメラへの搭載
このレンズはフランジバックが比較的長く、ミラーレス機はもちろんのこと一眼レフカメラで使用した場合にも無限遠のフォーカスを拾うことができる。レンズはマウント側のネジがM25(ネジピッチ0.75mm)になているので、市販のアダプターを用いてM42ネジやM39ネジに変換すれば直進ヘリコイドに搭載することができる。

M42ヘリコイド(35-90mm)に搭載するために用いたアダプター。左がM39-M42変換リングで、右がM25-M39アダプター(入手したレンズに付属)。いずれもeBayにて同等品を入手することができる


 
撮影テスト
マクロ域での画質は素晴らしく、デジタルセンサーの分解能にも負けない高い解像力を備えたレンズである。フレアは良く抑えられておりスッキリとヌケが良く、コントラストや発色も良好である。階調は軟らかく中間階調は豊富に出ており、絞っても硬くなることはない。しかし、何より驚いたのはピント部の画質である。最初の3枚の作例セットを見ていただけるとわかるように、開放から最少絞りまで画質の変化がほとんどみられず、ピント部は恐ろしいほど安定している。点光源によるボケ玉の明るさが均一であることからも、このレンズが近接域で理想に近い収差設計(球面収差完全補正)を実現している様子がうかがえる。ただし、中遠景を撮影する際は解像力が若干低下し後ボケの拡散がやや硬くなるとともにコントラストもやや落ちる。これは古いマクロ撮影専用レンズに共通する傾向でもあり、収差の補正基準点を近接域に設定しているためである。焦点距離8cmは無理のない画角のようで、グルグルボケや放射ボケは全く見られない。口径食は開放で近接撮影時(写真1枚目)に僅かにみられる程度で問題となるレベルではない。逆光には弱いが、軟らかい繊細な階調描写と近接域での高解像な描写力が魅力の優れたレンズである。

F4.5(開放), Sony A7(AWB): ピント部の解像力はとても高く、現代のデジカメセンサーがもつ分解能にも負けていない。ボケ玉の明るさは均一で球面収差が良好に補正されている様子がわかる。開放からスッキリとヌケが良く、発色やコントラストは良好である

F7.7, Sony A7(AWB): ピント部の画質は絞っても大して変化しない。それだけ開放での描写に余裕があるためであろう。強い日差しにもかかわらず階調は軟らかさを維持している。中間階調が豊富に出ており背景のトーンがたいへん美しい

F15.4(最少絞り), Sony A7(AWB): 深く絞っても回折による解像力の低下はほとんど感じられない。画質に安定感のあるレンズだ

F4.5(開放), Sony A7(AWB): 口径食はほとんどない。シャドー部が良く粘るレンズである。中遠距離になるにつれ後ボケが硬くなるのは古いマクロ撮影用レンズに共通している傾向だ

F6.3, Sony A7(AWB): 少し前にElgeet Mini-Telの撮影で使った被写体である。このシーンでも試してみたかった。高解像なレンズなので凄い質感が出ている


2014/11/26

レンズ名の語源

世の中には数え切れない種類のレンズがあり、欧州の光学メーカーにはその一つ一つに固有の名称を与える素晴らしい伝統があります。こうした製品名には開発者の理念や製品コンセプトが反映していることが多く、レンズグルメの一人としては見逃すことのできない重要なポイントです。これは欧州のカメラ産業が日本のようなオールインワンでの製品開発を主流とはせず、カメラやレンズ、シャッターなどパーツ毎に開発と生産を分業する体制を敷いていたためではないかと考えられます。
さて、最近「カメラ名の語源散歩」(新見嘉兵衛著・写真工業出版社)という本を手に入れ読んでみましたが、とても興味深い内容でした。ぜひ購入されていてはいかがでしょうか。

本ブログで過去に話題にしたレンズやメーカー等についても、その名称の語源が沢山取り上げられていましたので、この本を含むいくつかの参考文献から関連情報を引用し、私のTEXT&表現で紹介させていただきました。参考文献を下記にあげさせていただきます。

参考文献
「カメラ名の語源散歩」新見嘉兵衛著・写真工業出版社
 最も充実した情報源です。この本に収録されている情報に多くを頼りました。
「フォクトレンダー VM & カールツァイス ZM レンズWORLD」 日本カメラMOOK
 P28にZeissとVoigtknderのレンズ名の由来が収録されています。
「ツァイスイコン物語」竹田正一郎著
 本の中の各所にZeissのレンズ名の由来に関する情報が網羅されています。
「ぼくらのクラシックカメラ探検隊フォクトレンダー」オフィスへリア
 本の中の各所にVoigtlanderのレンズ名の由来に関する情報が網羅されています。
Helmut Franz and Edward Reutinger, STEINHEIL MUNCHENER OPTIK MIT TRADITION

TEXT:Spiral
  • A.Schacht Traveron(トラベロン), Travenar(トラベナー), Travegar(トラベガー), Travegon(トラベゴン): 「遠くへ」または「外国への旅行」を意味するTravelが由来。旅行に持っていけば大活躍するという意味が込められてるのだろう。携帯性の高いコンパクトなレンズが多い。
  • Agfa Solagon(ゾラゴン), Solinar(ゾリナー): ラテン語で「太陽」を意味するSolが由来。ソーラーカーやソーラーシステムとも同じ語源である。アニメAkiraで出てきた光学兵器もこんな名前だった。
  • Arsenal Vega(ベガ): ロシアのクセノタール型レンズに付与されるブランド名で七夕の織女星(琴座の一等星)Vegaが由来。ベガは赤い星だが、このレンズのコーティングもマゼンタだった。ちなみに、よくセットで仲良く売られている望遠レンズのTair(タイール)はわし座のアルタイル「彦星」である。偶然と言えば偶然なのだが。
  • Carl Zeiss Planar(プラナー):ドイツ語の「平坦な」を意味するPlan(ラテン語ではPlanus)が由来。平坦な像面が得られるという意味。こんな名前がついたのも、もともと製版向けが主だったためであろうか。
  • Canon:観音に由来しKwanon → Cannon(大砲の意) → Canon(規準の意)と変遷したと「カメラ名の語源散歩」に解説されている。大砲くらいで留めとくのが一番かっこよかったのに、フツーの名前になってしまった。
  • Canon Serenar(セレナ―):精機光学の社内公募によって選ばれたもので、セレン=澄んだという意味が込められているとももに、月面にある海の名称に由来している。
  • Carl Braun Braun-Paxette(パクセッテ): やはり同じ文献に解説があり、Carl Braun社の6x6判カメラ。ローマ神話の「平和の女神」を表すPaxが由来だそうである。カメラ名やレンズ名には神話を由来にするmのが数多くあります。
  • Carl Zeiss Biotar(ビオター): 文献2に解説があり、ギリシャ語で「生命」を表す接頭語Bioを由来としている。ただし、文献によっては若干異なる解釈もあるらしいことを読者の方から教えていただきました(感謝)。「もの」を意味するMetronを組み合わせBiometar(ビオメター), 「角」を意味するGonを組み合わせBiogon(ビオゴン), テッサーの改良という意味でBiotessar(ビオテッサー)とした。
  • Carl Zeiss Distagon(ディスタゴン):ラテン語の「遠くの、離れた」を意味するDistoに「角」を意味するGonを組み合わせた。焦点距離よりもバックフォーカスの長いレンズを意味する。
  • Carl Zeiss Flektogon(フレクトゴン):ラテン語の「曲がる、傾く」を意味するFlectoにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせたのが由来。融通が利くという意味で用いられるフレックスも元は同じ語源であり、やはり曲がるという意味もある。
  • Carl Zeiss Hologon(ホロゴン):ツァイスの超広角レンズ。Holoは「全部」を意味するギリシャ語接頭語で、これに「角」を意味するGonを組み合わせた。ホーロー鍋の語源にも関係しているのかもしれない。感じでは「琺瑯」だそうである。
  • Carl Zeiss Orthometar(オルソメタール):ギリシャ語で「正直、正」を意味する接頭語Orthoと、おなじく「もの」を意味するMetronの組み合わせ。Metronはメートルの語源でもある。湾曲なく真っ直ぐに写すという意味を感じる。
  • Carl Zeiss Protar(プロター):ギリシャ語の「元祖の、最初の」を意味するProtosが由来。これに関連して英語のPrototype(プロトタイプ)は試作品もしくは原型を意味する。
  • Carl Zeiss Sonnar(ゾナー):太陽を由来にもtsレンズ名は数多くある。このレンズもドイツ語の「太陽」を意味するSonneが由来となっている。ただし、Carl Zeissが工場を構えた地名Sonthofen(ゾントホーフェン)から来るという説もある。
  • Carl Zeiss Tessar(テッサー):ギリシャ語の「4」を意味するTessaresが由来で、このレンズが4枚玉であることを意味している。
  • Carl Zeiss Topogon(トポゴン):ギリシャ語の「地形」を意味するTopography、あるいはその語源となった「場所」を意味するToposに由来している。航空写真用であることを意味している。
  • Carl Zeiss Triotar(トリオター), Hugo Meyer Tripoplan(トリオプラン), Triplet(トリプレット):ラテン語の「3」を意味するTriplexが由来で、これらのレンズが3枚玉であることを意味している。
  • Chinon(チノン):創業時に三信光学であった時の製品名で、創業時の社長である茅野弘氏の名が由来。
  • Copal:創業者の小林氏のCoと前原春一氏のHalを組み合わせ、Co+Hal→Copalとなった。
  • Cosina:創業者の小林文治郎氏の出身地が長野県中野市越地区だったので、越地区のCosiと中野市のNaを組み合わせ社名にした。
  • Dallmeyer Rapid-Rectirinear(ラピッド・レクチリニア):「高速な」を意味するRapidと四角形(長方形・矩形)を意味するRectが由来。四隅まで歪まずに写る画期的なレンズであった。
  • ELGEET: 創業者の3人(London, Goldstein, Terbuska)の頭文字を組み合わせたL+G+Tが由来。
  • Ernemann Ernostar(エルノスター):Ernemann社のStar(星)という意味。
  • Ernst Leitz Ermar(エルマー), Ermax(マックス), Ermarit(エルマリート):会社名のErnst Leitzとレンズ設計者の名Max Berekを掛け合わせてできた名称。
  • Ernst Leitz Hektor(ヘクトール):ギリシャ神話でトロイ戦争に出てくる勇士の名が由来。ちなみにレンズの設計者Max Bekekは愛犬にHektorの名をつけていた。
  • Ernst Leitz Summar(ズマール),Summicron(ズミクロン),Summitar(ズミタール), Summilux(ズミルクス), Summarit(ズマリット): ラテン語の「最高の」を意味するSummaを由来としている。これに「小さい」を意味するMicroを組み合わせるとSummicron, 「光」を意味するLuxを組み合わせるとSummiluxとなる。
  • Ernst Leitz Thambar(タンバール):「まばゆいばかりの美しさ」を連想させるギリシャ語の「thambo」が由来(ライカ社)。
  • Futura Frilon(フリロン):同社のレンズ名は創業者Fritz Kuhnert一家の家族の名が由来。望遠レンズのTele Elorは妻Eleonore、EvarとPetarは彼の子供達EvaとPeterから来ている。ちなみに最も明るい最高級レンズのFrilonはクーネルト自身の名Fritzからである。
  • Goerz DAGOR(ダゴール):Doppel-Anastigmat Goerzの頭文字を組み合わせDAGORとしたのは有名な話だ。
  • Goerz DOGMAR(ドグマー):ラテン語で「信条」を表すDOGMAが由来。宗教性を帯びた名前には不思議な魅力を感じる。
  • Goerz Hypergon(ハイパーゴン):ギリシャ語の「過度」を意味するHyperと、「角」を意味するGonの組み合わせ。あるいみウルトラゴンにも似ている。巨大隕石が落ちて来るような名前である。
  • Hugo Meyer Helioplan(ヘリオプラン):メイヤーの広角レンズ。ギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosとドイツ語の「平坦」を意味するPlanを組み合わせた。
  • Hugo Meyer Tele-Megor(テレ・メゴール):「望遠」を意味するTeleにMeyer社のMe、同社の所在地GorlitzのGorを組み合わせたの由来。
  • Jhagee Exakta(エキサクタ):ドイツ語の「精密な」を意味するExaktから来ている。
  • Kern Switar(スイター):スイスの英語名SwitzerlandとAarauから来ている。
  • Kilfitt Zoomar(ズーマー): ズーマー社(キルフィット社)の社名でもありレンズ名でもあるZoomarは、ズームレンズの語源にもなっていりが、元来はブーンという音を表す擬声音で飛行機が急角度で上昇する意味。
  • KMZ Helios(ヘリオス):ロシアのKMZ社の標準レンズ。ギリシャ語の「太陽神」を意味するHeliosが由来。ラテン語ではSolというそうだ。
  • KMZ Jupiter(ユピテル):ローマ神話の最高至上の神の名。英語ではジュピターと読む。ロシアのゾナー型レンズにつけられる名称。
  • KMZ Mir(ミール):ロシア語で「平和」「世界」を意味するMIRが由来。広角レンズにつけられる名称。Flektogon 35mmのロシア版コピーはMir-1。
  • KMZ Orion(オリオン):ギリシャ神話の巨身美貌の狩人。オリオン座。ロシア版Topogonに用いられている。
  • KMZ Russar(ルサール):ロシア製超広角レンズ。「ロシア」を意味する英語のRussoが由来。ロシアが独自に生んだ最もロシアらしい超広角レンズ。良く写るらしい。
  • Kodak Ektar(エクター):米国メーカーのEastman Kodak Co.の略語EKCから作られたと推測される。
  • Kodak:創業者イーストマン氏の造語ではなく、どの国の人にも発音しやすい語が選ばれたといわれている。
  • Komura: 三協光機の社長小島氏のKoと専務の稲村氏のMuraを組み合わせKo+Muraとなった。
  • Konishiroku Hexar(ヘキサー), Hexanon(ヘキサノン): ギリシア語の「6」を意味するHexおよびその接頭語であるHexaが由来。ちなみにHexarはテッサー型なので6枚玉の意味とは関係なさそう。小西六右衛門の六か?。
  • LZOS TAIR(タイ―ル):わし座の一等星Altair(アルタイル)が由来。アルタイルと言えば日本では「ひこ星」と呼ばれている。ちなみに、セットで仲良く売られていることの多いVEGAというレンズは七夕の織女星(琴座の一等星)、おりひめ星である。偶然と言えば偶然なのだが。
  • LZOS Jupiter(ユピテル):ローマ神話の主神。神々の王の名からとった。
  • Mamiya Sekor(セコール):Sekorはマミヤ光機から独立した世田谷光機が発売したレンズで、SEtagaya+KOkiでSekorとなった。しかし、Mamiya Sekorでレンズが出ているので、結局はマミヤの傘下に入ったという事だろう。
  • Metz Mechaflex(メカフレックス):メッツ社の4x4判カメラ。「機械」を意味するMechanik(メカニック)を由来としている説とMetz社のCameraの略という2つの説がある。前者の方がカッコいい。
  • Meyer Primagon(プリマゴン), Primoplan(プリモプラン),Primotar(プリモタール):ラテン語の「第一の、最初の」を意味するPrimoにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせ広角レンズPrimagon、ドイツ語の「平坦な」を意味するPlan(ラテン語ではPlanus)を組み合わせPrimoplanとした。Primoはドイツ語では「優秀な、最良の」を意味するPrimaと関連があるので、この意味を掛けているとも考えられる。
  • Minolta Rokkor(ロッコール):ミノルタが創業地である西宮市から近い神戸市六甲山にちなんで命名した。
  • O.P.L. Foca(フォカ):フランスのライカタイプのカメラ。フランス語の「焦点」を意味するFocusが由来。「カメラ名の語源散歩」によると、元来は「炉」を意味するラテン語で太陽の像を結ぶと黒紙が焦げるところから来ている。うーん。深い!
  • Orion精機 Miranda(ミランダ):Orion精機のカメラ。ラテン語で「感心な女の子」の意味。天王星の衛星の名にもなっている。こういう由来で名を決めた経緯にむしろ興味がわく。
  • Pentacon(ペンタコン):東ドイツVEBペンタコン社の社名およびレンズブランド名。「ペンタプリズム付きコンタックス」の意味。ちなみにPentagonは5角形でアメリカ国防総省の中枢にもなっているが、これとは全く関係ない。
  • Petri(ペトリ) 栗林製作所:栗林製作所のカメラの名称。キリスト教12使徒の1人「聖ペテロ」に由来している。3Mの微生物検査ツールであるペトリフィルムと関係があるのであろうか?
  • Petri Orikkor(オリコール):「お利口」からきていると想像しがちだが、ペトリのレンズにはOrikon(オリコン)という製品もあるため、どうも違うようだ。
  • Pentax Takumar(タクマー):Pentaxの創業者の関係者で梶尾琢磨氏(芸術家)の名からとったのは有名な話。また、ある筋から聞いたところでは「切磋琢磨」する意味とかけているらしい。
  • Plaubel Anticomar(アンチコマー):プラウベル社製レンズのブランド名。ギリシャ語で「非」を意味するAntiとコマ収差のComaを合成した名称。
  • Retina(レチナ):Kodakのカメラに用いられたブランド名で、ラテン語の「網膜」を意味する。
  • Rodenstock Eurygon(オイリゴン):ギリシャ語の「広い」を意味する接頭語Eury-に同じく「角」を意味するGonをかけあわせた名称。ヨーロッパを意味するEuroとは無関係(←私は長らくコレだと勘違いしていた)。
  • Rodenstock Heligon(ヘリゴン):太陽に由来するレンズ名は多いがヘリゴンはローデンストック社の大口径標準レンズに用いられたブランド名で、ギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosに「角」を表すGonを組み合わせてつくられた。
  • Rodenstock Imagon(イマゴン):ラテン語で「映像」を意味するImagoとギリシャ語の「角」を意味するGonの合成だそうである。イメージという言葉も同じ語源であろう。
  • Roeschlein LUXON(ルクソン):「光」を意味するLuxが由来。
  • Schneider Angulon(アンギュロン):ラテン語の「角」を意味するAngulusから作られたと推測されている。写真を撮る際によくつかう「アングル」とも同じ語源であろう。
  • Schneider Curtagon(クルタゴン):ラテン語の「短くする」を意味するCurtoに「角」を意味するギリシャ語のGonを組み合わせた。
  • Schneider Radionar(ラジオナー):シュナイダーのトリプレット型レンズ。ラテン語の「光る」を意味するRadioが由来。「放射」を意味するRadiationという説もある。
  • Schneider Xenon(クセノン), Xenar(クセナー), Xenogon(クセノゴン), Xenagon(クセナゴン): 原子番号54の希ガス元素キセノン、あるいはこの原子の語源となったギリシャ語の「未知の」を意味するXenosが由来。キセノンランプにはこの元素希ガスが用いられている。
  • Soligor(ソリゴール): もとは日本のカメラ、写真レンズのOEMブランド名で世界中でつかわれていた。「Solid+Gold」が由来とされているが、「太陽」をあらわすSolだったという説もある。
  • SOM BERTHIOT FOLR(フロール): 1908年に同社の技術顧問兼レンズ設計士だったシャルル・アンリ・フロリアン(Charles Henri Florian)の名から来ていると思われる。
  • Steinheil Cassar(カッサー), Cassarit(カッサリート), Cassaron(カッサロン):「カメラ名の語源散歩」やFranz & Reutingerの文献などにSteinheil社の創業者C.A.Steinheilの頭字(C+A+S)が由来と解説されている。知らなかった!
  • Steinheil Culminar(クルミナー), Culmigon(クルミゴン): ラテン語の「頂上」を意味するCulmenが由来。これにギリシャ語の「角」を意味するGonを組み合わせた広角レンズCulmigonとした。もともとは最高級のレンズという意味が込められたのであろうが、トリプレットなど安価なレンズにも多用されていた。名前負けしている。
  • Steinheil Orthostigmat(オルソスティグマート):ギリシャ語で「正直、正」を意味する接頭語Orthoと「点、印」を意味するStigmaの組み合わせ。湾曲なく真っ直ぐに写るという意味が込められているのであろう。ツァイスのOrthometarも一部同じ由来であろう。
  • Steinheil Quinar(キナー), Macro-Quinar(マクロ・キナー): ラテン語の「5つの」を意味するQuinarius(ドイツ語のQuinar)に由来しており、同社のQuinarの設計は確かに5枚です。
  • Tamron(タムロン):創業時の泰成光学の設計者田村右衛門のTamuraが由来。
  • VEB Pentacon Practicar(プラクチカール):「実用」を表す接頭語のPractiが由来。東ドイツ製カメラのPracticaやPractinaも同様。
  • Voigtlander Apo-Lanther(アポ・ランター):アポはアポクロマートの略で色収差をできる限り小さくしたという意味。ランターはガラスに用いられた希土類元素Lanthanumからとった。
  • Voigtlander Collinear(コリニア):ラテン語の「同一の」を意味するColに「線」を意味するLineaを組み合わせた。全体として「同一線上の」の意味となる。
  • Voigtlander Heliar(ヘリアー):フォクトレンダーの名玉。ギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosが由来である。ちなみにヘリコイドとはまったく関係ない。太陽を語源とするレンズ名はHeligonやSoligon、Sonnarなど沢山あるが恐らく1901年発表のHeliarが一番最初ではないだろうか。
  • Voigtlander Nokton(ノクトン):夜を意味する接合辞のNoctあるいはNoctiが由来。またはラテン語の「夜の」を意味するNocturnusが由来。
  • Voigtlander Orthoscope(オルソスコープ):ペッツバールが設計し1851年に発売された広角レンズ。ギリシャ語の「真っ直ぐ、正」を意味するOrthoと、「観る、観察する」を意味するScopioを組み合わせたのが由来。
  • Voigtlander Septon(セプトン):ラテン語で「7」を表すSeptemが由来。
  • Voigtlander Skopar(スコパー), Skoparex(スコパレクス), Skopagon(スコパゴン):ギリシャ語で「見ることのできる」を意味する接尾語のScopeが由来。これにギリシャ語の「角」を意味するGonをSkopagonとなる。
  • Voigtlander Ultragon(ウルトラゴン):ラテン語の「極端」を意味するUltraと「角」を意味するGonの組み合わ
  • Voigtlander Ultron(ウルトロン):ラテン語の「極端な」を意味するUltraが由来。
  • Wollensak Velostigmat(ベロスティグマート):ウォーレンザック社の高速レンズ。ラテン語の「速い」を意味するVeloxが由来。
  • Zeiss Opton(オプトン):旧西ドイツのオーバーコッヘンを拠点としたCarl Zeiss社の旧称。ラテン語の「視覚」を意味するOpticusまたは英語の「光学」を意味するOpticsが由来。
  • Zenit:英語のZenith(天頂、絶頂)に当たる意味。
  • Zuiko(ズイコー):オリンパスのレンズ名。瑞穂光学研究所(ZUIho KOgaku Institute)の名称が由来。
  • Zunow:ズノー光学(旧帝国光学)の名称は、おそらく「頭脳」が由来。インパクトのあるブランド名だ。
他にも「これは面白い」という語源(レンズやメーカー名に関するもの)をご存知でしたら、掲示板等でお知らせください(できれば出典もお願いします)。リストに加えさせていただきます。