おしらせ


2016/02/24

VEB Pentacon AV (Meyer Optik Diaplan) 80mm F2.8 (Projector Lens)

東ドイツのペンタコンブランド PART 3
バブルボケの出るプロジェクター用レンズ
VEB Pentacon AV(Diaplan) 80mm F2.8
オールドレンズの分野では数年前から流行しているバブルボケであるが、ブームの火付け役のとなったメイヤー・オプティック社のトリオプラン(Trioplan) 100mm f2.8には、実はプロジェクター用に供給された姉妹品のDiaplan(ダイアプラン)が存在する。レンズ構成はトリオプランと同一で、トリオプランとほぼ同等のバブルボケが発生するため、高価なトリオプランの代用になる製品として最近注目されはじめている[参考1]。3年前、私にトリオプランのバブルボケを教えてくれたドイツの光学エンジニアMr. Markus Keinathがその後"Soap Bubble Bokeh Lenses"と題する新しい記事を2014年に公開しており、その中でTrioplan 2.8/100とDiaplan(Pentacon AV)2.8/100の描写の比較をおこなっていた[参考2]。彼のレポートによるとトリオプランとダイアプランの描写は発色傾向に差がみられるものの極めて高い類似性があり、解像感やボケ具合等には差が認められなかったという。彼の作例からはダイアプランの方がトリオプランよりもクールトーンな発色傾向であることが判る。ダイアプランには100mm以外にも焦点距離の異なる複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200)を確認している。メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのダイアプランを含むメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わった。
今回紹介するレンズはメイヤーを取り込んだペンタコン人民公社がダイアプランの後継レンズとして生産したスライドプロジェクター用レンズのPENTACON AV 80mm F2.8である。このレンズにはスライドプロジェクターのPentacon Aspectomatシリーズに供給されたモデル(アスペクトマット用)とPentacon AspectarシリーズやPentacon AV autoシリーズに供給されたモデル(アスペクター用)の2系統が存在する。もともと撮影用ではないので絞りやヘリコイドはついていないが、開放でのバブルボケを利用した撮影が目的なので絞りは必要ない。そのまま市販のヘリコイドチューブに搭載して写真用レンズとして用いればよい。

参考文献・サイト
[参考1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
[参考2] Markus Keinath - Soap Bubble Bokeh Lenses

PENTACON AV 80mm F2.8(アスペクトマット用), 絞り無し, レンズヘッドネジ 58mm径, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴はプラスティック製, マルチコーティング, スライドプロジェクターのモデルはPentacon Aspectomat, 


PENTACON AV 80mm F2.8(アスペクター用), 絞り無し, 設計構成は3群3枚のトリプレット型, 鏡胴径42.5mm, 鏡胴はプラスティック製,  マルチコーティング, スライドプロジェクターのモデルはPentacon auto 100/ auto 150/ Aspectar



入手の経緯
現在は改造済みの商品を入手することが可能になっており、レンズの改造を専門とするNOCTO工房に相談するか、ヤフオクで個人の工房が改造品を定期的に出品しているので、こちらからも手に入れることができる。2016年8月時点でのレンズの相場は20000円から30000円あたりのようである。
レンズは2016年1月にドイツ版eBayを介し旧東ドイツの光学製品を売る古物商が出品していたもので、アスペクトマット用が即決価格29ユーロ、アスペクター用が即決価格34ユーロであった。写真を見る限りガラスは綺麗で、プラスティック製のマウント部には傷が全く見られなかったので、未使用のオールドストック品と判断し購入に踏み切った。送料が5ユーロと安いにも関わらずドイツから5日で届いた。レンズは極僅かなホコリの混入のみで、クリーニングマークすらない状態の良い品であった。eBayなどの中古市場に流通しているモデルは大半がアスペクター用であり、アスペクトマット用を見つけるのは容易ではない。
  
カメラへのマウント
レンズにはヘリコイドがついていないので、一般撮影用としてデジカメで用いるには市販のヘリコイドチューブと組み合わせて使うことになる。おススメはアスペクター用のレンズヘッド(下の写真・左)をM42直進ヘリコイド(25-55mm)に搭載する改造である。まずはじめにニッパーでレンズガードをバキバキに割り、後玉が露出された状態にする(下の写真・右)。ここで注意しなければならないのは割れた部分で手を切らないよう手袋をすることと、パキパキしているところを家族に見られると怪しまれ、いちいち説明するハメになるので、人が寝静まる夜中などにコッソリ取り組む。









レンズガードを除去したのが下の写真の左。後玉が飛び出しているので、ガラスに傷をつけないよう注意しなければならない。ここに、52-43mmステップダウンリングを取り付け(写真・中央)、エポキシ接着剤でガッチリと接着する(写真・右)。




 
次に下の写真・左のように前玉側に43-46mmステップアップリングをエポキシ接着し、フィルターネジにする。下処理として43-46mmステップアップリングのネジ山を棒やすりで潰しておく必要がある。これを怠ると、据え付けがきつく前玉側の鏡胴が割れる。棒やすりによる下処理が面倒な人は・・・・、やや耐久性に劣るが42-46mmステップアップリングでもよい。完成したレンズヘッドをM42ヘリコイドに乗せ(写真・右)、これで完成。


「2番リング」とはマイクロフォーサーズ用マクロエクステンションチューブで使用されている2番目の中間リングのことだ(下の写真・左)。写真の右にはヘリコイド周りで使用した部品を並べている。39-52mmステップアップリングの代わりに42-52mmステップアップリングを用いても、ネジピッチが異なるのでM42ヘリコイドには着けられない。



続いてアスペクトマット用の改造例である。アスペクトマット用はマウント部に58mm径のオスネジがついており、フィルター用ステップアップリング(39-58mm)が問題なく装着できるので、M39-M42ステップアップリングを介しM42ヘリコイドチューブ(35-90mm)に搭載することができる。この状態でフランジバックはM42マウントレンズとほぼ同じで、若干のオーバーインフ気味であるが無限遠のフォーカスを問題なく拾うことができる。なお、レンズヘッド側のネジの軸(ネジ先からネジ頭まで)がステップアップリングのネジ軸よりも長いので、そのまま装着するとネジ込みが収まりきらず隙間が生じてしまう。レンズヘッド側のネジを棒ヤスリで半分ぐらいに落としておいたほうが見栄えは良い。(注意:よくある36-90mmでは無限遠が出ない!。その場合にはレンズヘッド側のネジを棒ヤスリで落とすことでフランジを削り無限を出す)





続いてアスペクター用モデルであるが、鏡胴径が約42.5mmなのでM42ヘリコイドにはギリギリ収まらず、改造難度はこちらのほうが高い。ルーターでネジ山をつぶしたステップダウンリング(52-43mm)を鏡胴にはめて接着固定し,そのままM52-M42ヘリコイドに搭載してM42レンズとして用いるのことにした(写真・下)。プラスティック製のレンズガードはニッパー等で除去している。


おすすめのモデル
冒頭でも触れたがPentacon AV(Diaplan)には少なくとも9種類のモデル(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150)が存在する。どれを選択すればよいのかはカメラの種類と撮影対象(マクロ域で使うのか?ポートレート域で使うのか?)で決まる。私のおすすめは35mm版換算で焦点距離が100mm以上になるモデルである。このくらいの長焦点レンズになると望遠圧縮効果が有利に働き、大小不揃いのバブルボケが発生するので、奥行きのある空間をシャボン玉の泡沫が浮遊しているように見える。使用するカメラがAPS-CセンサーやM4/3センサーを搭載した機種ならば9種類あるモデルのどれを選んでもよいが、センサーサイズの事を考えると口径比がF3よりも明るいモデルがよいだろう。マクロ域での撮影が中心ならば80mm F2.8、ポートレート域で人物の背後にバブルボケを出したいならば80mm F2.8か100mm F2.8(F3)をおすすめする。焦点距離が長いほどボケ量を稼ぐには有利だが、長すぎるとスナップ撮影では手振れを起こしやすく使いにくい。一方、使用するカメラがフルサイズセンサーを搭載した機種なら焦点距離100mm以上のモデルがおすすめである。中でも150mmF2.8はダイアプラン系列で最大の口径を誇り、50mmの標準レンズに換算しF0.9相当の極めて大きなボケ量が得られるので、ポートレート域で人物を撮る際には絶大な効果(巨大バブル)を期待することができる。60mm F2.4はトリプレット型ではなくダブルガウス型なのでバブルボケの出る保証はない。

撮影テスト
バブルボケの出るレンズはどれも収差(球面収差)を過剰に補正したものであるため、背後のボケは硬くザワザワとして煩いが、反対に前ボケはフレアに包まれ柔らかく美しいのが特徴である。本レンズの場合はやや長焦点レンズということもあり、ピント部の画質は四隅まで大きな乱れもなく安定している。ボケも四隅まで整っておりグルグルボケや放射ボケは全く見られない。私は望遠圧縮効果を強化するため、Sony A7をAPS-Cクロップモードに切り替えて撮影した。この場合の換算焦点距離(35mm版換算)は120mm相当である。遠方に点光源をとらえマクロ域を撮影したところ、大小さまざまな大きさのバブルボケを発生させることができた。トリオプランの開放描写を彷彿させる、輪郭のハッキリとしたバブルボケである。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには80mm相当の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。

撮影機材
カメラ SONY A7 (APS-Cクロップモードで使用) / Sigma SD Quattro
Photo 1: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)




Photo 2 by Yusuke SUZUKI : Pentacon AV80mm F2.8, Sigma SD quattro

Photo 3: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)

Photo 5 by Yusuke SUZUKI : Pentacon AV80mm F2.8, Sigma SD quattro
Photo 4: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)
Photo 6: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(FF mode, AWB)









Photo 7: Pentacon AV 80mm F2.8, Sony A7(APS-C mode, AWB)

2016/02/11

Kinoptik Paris Apochromat 100mm F2のハレーション対策



Kinoptik Apochromat 100mm F2のハレーション対策
キノプテック・アポクロマート(Kinoptik Apochromat) 100mm F2は逆光撮影にたいへん弱く、純正フードを装着しても写真の中央部に盛大なハレーション(ベーリング・グレア)の塊が発生する。知人のプロカメラマンからこの問題をどうにか改善できないかとレンズを託された。問題の発生原因を突き止めたのはフードに光を通し反対側から覗き込んだ時で、内側の壁にはギラギラとした照り返し光が顕著にみられた。なんと、高級なアルパの純正フードであるにも関わらず、反射防止塗料が用いられていなかったのである。フードの内側に植毛をはり、改善効果を検証することにした。
フードの内側に光の反射を抑える植毛を貼る 
撮影テスト
(1)フードを装着しないケース、(2)純正フード(植毛なし)を装着したケース、(3)純正フード(植毛あり)を装着したケースの3パターンで逆光撮影による画質の比較を行い、植毛を用いて反射を抑えたことによる改善効果を検査した。テストに使用したカメラはSONY A7で、マニュアルモードでシャッタースピードを固定、ISO感度は200としている。撮影テストはカメラを三脚に固定した状態で実施した。レンズの絞りは全て開放としている。
Photo 1: フードも何もつけない場合。ハレーション塊が発生しコントラストも低い



Photo 2:  純正フード(植毛なし)を装着した場合。中央部のハレーション塊は少し抑制されているが、依然として盛大に出ている

Photo 3: 純正フードの内側に植毛を貼った場合。ハレーション塊はほぼ消えコントラストが向上している




続いて太陽の光が斜め前方(画角外)から入る条件でテストした。

Photo 4: フードも何もつけないケース。ハレーションが発生しコントラストが低下している

Photo 5: 純正フード(植毛なし)を装着したケース。中央部にハレーション塊が登場している。フードを付けたことがハレーション塊の発生原因となってしまった

Photo 6: 純正フード(植毛あり)を装着したケース。ハレーション塊が消えコントラストが向上している









逆光では純正フードの装着・未装着に関係なくハレーション塊の発生を確認した。これに対し、太陽の光が斜め前方から入る条件では純正フードを付けることで逆にハレーション塊が出てしまった。これは、フードの表面で照り返しが生じたからである。フードの内側に植毛をつけることでハレーション塊は消え、コントラストが向上した。